響木に呼ばれた豪炎寺は本部の最上階にある室長室へと向かった。エレベーターを降りると目の前には大きな扉。ノックをすると響木の「入れ」という声の後、持っていた証明パスを扉に翳すとぴぴっと施錠が解除された音が響いた。そして、その重い扉を開く。

「豪炎寺、呼び出して悪かったな」
「あ、いえ、特にすることもありませんし」
「部隊長のお前に紹介したい奴がいてな」

出て来なさい、そう呼びかけると響木の椅子の後ろから白い子どもがゆっくりと顔を出した。レジスタンス指定の制服、真っ白な床に付きそうなくらい長い白いマフラー、白銀色の髪に深海色の瞳…その子供は紛れもなく昨日曲がり角で豪炎寺とぶつかった子供だった。

「今日から特別戦闘部隊に配属された吹雪だ」
「吹雪士郎と言います。よ、宜しくお願いします…」
「……豪炎寺だ。それは分かったから早く出てきなさい。響木さんに失礼だろう?」
「あっ、はい…!す、すみませんっ」
「気にするな。豪炎寺は厳しいな」

ぱっと椅子の裏から出てきた吹雪は申し訳無さそうに俯いた。今日から特別戦闘に配属されたということは、恐らくこの子は

「この子が調整中だったという?」
「あぁ、レジスタンス4人目ナンバーズ。No.9、『吹雪士郎』だ」

No.9ということは最後のナンバーズなのだろう。特別戦闘部隊のメンバーはナンバーズの腐れ縁というやつで面識がある奴が多いようだ(天馬曰わく)。恐らく吹雪もすぐに打ち解けられるだろう。それよりも

「この子が俺の相方に…?」
「そうなるな。瞬木には拒否されたんだろう?」
「まぁ…」
「じゃあ、吹雪とペアになるしかないな。任務を再開したいのなら」

チラリと吹雪を見ると向こうも豪炎寺の様子を窺っていたようでバッと視線を逸らされた。完全に豪炎寺を警戒しているようで軽く溜息を一つ。

「……吹雪、まずはお前の戦闘能力を見たい。55階の訓練場に行くぞ」
「は、はいっ!」
「ペアを組むってことでいいんだな?」
「……」

響木の問いに何も答えることができず、ただ失礼しますと言って豪炎寺は吹雪と共に室長室を出た。



***


室長室から訓練場に移動した豪炎寺達は、まず射撃場へと行った。吹雪にライフルを渡し、25メートル離れた的へ撃って貰った。しかし、全ての弾は的へは当たるが的の端を撃ち抜くばかりだった。射撃は並み以下という結果だった。吹雪は笑って誤魔化していた。
そして、次は剣技。吹雪に剣を渡し、向き合った。今回は実際に此奴と剣を交えて力量を見ることにした。吹雪は剣を左に持ったり右に持ったりして少し悩んでいるようだった。豪炎寺はお構いなしに「始めるぞ」と声を掛ける。悩んだ末、吹雪は右手に剣を持ち、右手足を前に出して身体全体は左に向けたまま腰を落とした構えを取った。

「123と数えるから3で始めるぞ」
「はい」

1、と数え始めると吹雪の雰囲気が変わったのが分かった。ギラギラと獲物を狙う獣のような目で目の前の豪炎寺を見つめる。吹雪は恐らく剣技主体の戦闘スタイルなのだろう。豪炎寺としては射撃主体の相方が良かったが、空中戦中心を得意とする協調性の欠片もない彼奴よりはマシだと結論づける。

「2…3!!……ッ?!」

数え終わると同時に一瞬で距離を詰めてきた吹雪。目にも留まらぬスピードに驚愕したが、豪炎寺の左脇を狙った吹雪の剣を自分の剣で払う。向こうも少し驚いた顔を見せながら体勢を整えて再び距離をとる。そして、休む暇もなく突っ込んでくる吹雪に迎え撃つように剣を交える。身軽な剣技を見せる吹雪に感心しながら、豪炎寺は吹雪の斬撃を一つ一つ受け止める。怪力型のドーピングモルモットではないようで、斬撃自体はそれ程重くない。だからと言って軽いわけではなく、一般男性と同じぐらいの重さはあるだろう。
しばらく、お互いの攻防が続いたが、吹雪は驚くべきことをしようとした。右左で持ち替えながら戦っていた吹雪だが、豪炎寺の振り下ろした剣を左手首で受け止めようとしたのだ。このままでは切り落としてしまう、そう感じた豪炎寺は寸のところで振り下ろすのを止めた。

「なっ、にをしているんだお前は…!!」
「え?…あっ!!いや、これは…」
「もう少しで切り落とす所だったんだぞ?!何を考えているんだ!!」
「ご、ごめんなさい…癖でつい…」
「癖?!」

「癖とはどういうことだ」そう発した言葉をかき消すように訓練場にサイレンが鳴り響いた。バタバタと移動し始める兵士達。吹雪は何が起こったのか分からないようでオロオロと困惑している。とりあえず、説明をしようと豪炎寺が口を開いた瞬間、端末が鳴った。

「豪炎寺だ」
『こちら神童です。街中にエネミーが現れて今、剣城達が向かっています」
「そうか、今から俺も向かって合流を…」
『豪炎寺さん、それは駄目です。まだペアを組んでいないんでしょう?正式にドーピングモルモットとペアを組むまで任務は禁止と言われてたはずです』
「………………………………いや」
『バレバレですよ。俺も行けたら良かったんですが、あの馬鹿がまだ戻ってきてなくて…とりあえず、作戦室まで来てくれませんか?』
「分かった、すぐに向かう」

通話を終えた端末機を眺めながら、豪炎寺はふと違和感を感じた。今まで街中にエネミーなんて現れたことなどあっただろうか?レジスタンス本部を囲むように形成された街は国境壁に守られている。国境壁の耐久性は完璧だ。それをエネミー如きが突き破って来れるはずがないのだ。だったら何故エネミーが街中に現れたのだろう?考えても埒がない、とりあえず、神童に言われたとおり作戦室へ向かわなければならない。豪炎寺は「お前も来い」と、ふと視線を吹雪へと戻すがそこには小さな白い彼奴はおらず、ただ無造作に置かれた剣が一本あるだけだった。



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