レジスタンス本部86階。そのフロアのとある窓をくぐって行ける小さな屋根の上に先客が一人。豪炎寺は窓辺から先客の様子を窺う。その先客は、気配を察知したようで面倒くさそうにゆっくりと振り返り、豪炎寺だと分かった瞬間、僅かに表情を変えたがまた外の風景へと視線を逸らした。

「久しぶりだな、瞬木」
「誰かと思ったらあんたかよ…死んだのかと思ってたぜ」
「お前は相変わらずだな」
「で、何か用?合同任務の話は聞いてないから、まさか俺とペアになってくれなんて言わないよな?」
「そのまさかだ」

予想通り、やだねと答える瞬木。そして、その場から逃げるように屋根から飛び降りた。
瞬木はそもそも他人と合わせるということが苦手らしい。鬼道曰わく、瞬木は何度も戦闘部隊の奴から誘いを受けていたが、「俺のスピードについてこれるなら組んでやってもいい」「数メートルは跳べないと話にならない」などと無理な条件を出し、挙げ句の果てには「俺に合わせろ」などという無茶ぶりを言い出す始末だったそうだ。しかし、合同任務のような短期間でのペアなら渋々だが此方に合わせてくれるようだ。

「協調性の低い彼奴と組むのは、やはり無理があるか…」

そもそも豪炎寺との戦闘スタイルが違う。あとは調整中のナンバーズに掛けるしかないようだ。
豪炎寺は誰もいなくなった窓辺から離れ、傍にあったエレベーターに乗り込んだ。そして、特別戦闘部隊第一作戦室がある90階を選択。上昇する景色を眺めながら、数秒で目的の90階に到着。ポーンという音と共に開かれた扉の先に懐かしい二人の背中が見えた。

「天馬、剣城!」
「え、?あっ!豪炎寺さん!!」
「豪炎寺さん、お久しぶりです」

にこにこと此方に小走りで駆け寄ってくる天馬と後ろから歩いてくる剣城。何も変わっていない二人を見て豪炎寺は懐かしんだ。

「わー!わー!本当に久しぶりですね!何ヶ月ぶりですかね?!」
「3ヶ月じゃないか?」
「3ヶ月ですか…結構長かったですね」

二人は特別戦闘部隊に所属する豪炎寺の部下だ。特別戦闘部隊、副隊長の剣城京介と相方のドーピングモルモットである松風天馬。二人のコンビネーションは部隊の中で最高と言ってもいい。豪炎寺はそういえばと天馬に問いかけた。

「天馬、いきなりで悪いが『ナンバーズ』とは何だ?」
「え、」
「……」

天馬だけでなく、剣城までもが固まってしまった。天馬は「ぁー…」と気まずそうに剣城と見合わせた。「豪炎寺さん…それを知らないのはちょっと…」
「大問題、と?」
「大問題ですね。部隊長なのに」
「部隊長なのに…」

少し悲しそうな目で豪炎寺を見る天馬。それはそうだ。部下である自分のこと、知っていて当然であることを知らないと言われたのだからショックを受けるのは当然だ。豪炎寺は天馬に「すまない」と言って慰めるように頭を撫でた。俺にでも分かるように詳しく説明してくれないか?お前達のことをよく知りたいんだ……そう頼むと天馬はぱぁっと笑顔を取り戻し、了承してくれた。そして、作戦室へと足を運ぶのだった。



***


「松風先生のドーピングモルモット講座〜!」
「「………」」

作戦室に着くなり、天馬は教壇の上に上がりどこぞの教師風に説明を始めだした。因みに、剣城も生徒役のようで微妙な顔で豪炎寺の隣に座っている。
天馬はどこからか取り出したぶかぶかの白衣を身に纏い、伊達眼鏡を掛けて気分は学校の教師だ。

「まず、ドーピングモルモットとは?はい、豪炎寺さん!」
「あ、あぁ……生物のDNAを投与することによって、その動物の優れた身体能力を身に付けた子供たちのこと…だよな?」
「ざっくり言えばその通りです!なんだ、『ドーピングモルモット』のことは知ってるんですね!」
「それだけしか知らないがな」
「まぁ、ぶっちゃけ俺もあんまり知らないんですけどね!」

おい、とツッコミを入れる剣城に照れた笑いを向ける天馬。剣城は呆れた顔で説明の続きを促した。

「じゃあ、ポーンと『ナンバーズ』の説明をしますか」
「頼む」
「はーい!えと、『ナンバーズ』っていうのはフィフスセクター研究所で造られた浸食率が80%を超えたドーピングモルモット達のことを言います」
「フィフスセクター…浸食率…?」
「一から説明しますね。まず、浸食率。意味はそのままです。生物のDNAをドーピングしてどのくらい身体に浸食したかを表した数値です」

パソコンがなくスクリーンが使えないためか、天馬は滅多に使われないホワイトボードをズルズルと引っ張ってきた。ペンで何か書こうとしているようだが首を傾げている。それを見かねた剣城が席から立ち上がり、ホワイトボードの前で必死に何かを思い出そうとしている天馬からペンを取り上げて代わりに「浸食率」と達筆な字で書いた。剣城に小さく礼を言って天馬は続ける。
「通常のドーピングモルモットの浸食率は高くても30%です。でも、フィフスセクター産のドーピングモルモットは平均60%越え、その中でも数少ない80%越えの子供達が『ナンバーズ』と言われているんです」
「『ナンバーズ』ってことは何か数字が関係しているのか?」
「研究所の番号です。おれは第八研究所のドーピングモルモットだからNo.8。あっ、『ナンバーズ』には皆身体のどこかに刻印があるんです!おれは左腕に」

刻印を見せようと制服を脱ごうとした天馬を剣城は軽く止める。渋々脱ぐのをやめて説明を続けた。

「ナンバーズは全部で9人。でも、そのうち1人は死亡、3人は死亡扱いです」
「何故死亡扱いなんだ?」
「行方不明なんですよ」

ずっと黙って天馬が説明したことを図にまとめていた剣城が口を挟む。その表情はどこか悲しげで思い出の人物を見つめているようだった。心配そうに見つめる天馬はその場を明るくするよう微笑みながらに此方に向き直る。

「えと、それはまた話すべき時に…でいいですか?」
「あ、あぁ…悪いな」

剣城にはあまり思い出したくないことを思い出させてしまったようだ。このまま説明を続けさせるのは良くないと思い、話を逸らそうとした時、豪炎寺の端末が鳴り響いた。





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