『ドーピングモルモット』
とある研究者の夫妻が発表した対エネミー用の強化人間である。動物のDNAを投与することにより、その動物の能力に応じた身体能力を得ることのできた人間を指す。我々は人間と区別するために「ドーピングモルモット」と呼ぶことにする。
しかし、誘拐、拷問などを用いて更に強化される方法が浮上し始め、現在では生産を禁止されている。






豪炎寺は、数ヶ月ぶりに我が家に帰ってきた。我が家と言ってもレジスタンスエリアの中心にそびえ立っている計100階建ての本部だ。そこは、無駄広く、長い廊下があり、沢山の部屋がある。そんな本部の無駄に広い廊下に響き渡る自分の足音を聞きながら、自分の部屋へ向かっていた。エレベーターに乗るために階段を横切るその時、豪炎寺は久しい同僚とすれ違った。

「豪炎寺」
「あぁ、鬼道か」
「珍しいな、本部にいるなんて」
「久しぶりの休暇だ」
「特別部隊のトップは忙しいからな」
「お前は情報部隊総括だろ?どっちもどっちな気がするが…」
「まぁ、お陰様で徹夜15日目だ…」
「いい加減に寝ろよ……。俺は自室に荷物置いた後に響木さんの所に報告に行くよ」
「そうか、また後でな」
「あぁ」

ここは革命機関レジスタンス。世界征服機関エルドラドに反旗を翻す機関である。レジスタンスは主に戦闘部隊、情報部隊、技術部隊、医療部隊によって編成されている。豪炎寺は、戦闘部隊の中の特別戦闘部隊に配属し、鬼道は情報部隊を指揮する総括だ。
鬼道と別れた後、エレベーターに乗り込み自室に着くと、荷物を床に置いた。何ヶ月も放置していたその部屋は埃が溜まっている。掃除は報告が済んでからとしようと決め、豪炎寺はそのままここのトップである響木の所へ足を運んだ。
本部の最上階にある部屋…そこがレジスタンスの総括、響木の部屋である。エレベーターの扉が開くと目の前に現れる大きなドアをノックする。「入れ」という声が聞こえると豪炎寺はドアを開けた。

「失礼します」
「おぉ、豪炎寺か。久しぶりだな」
「お久しぶりです響木さん。只今戻りました」
「御苦労。では、報告を聞こうか」
「はい。……向こうの国は全て壊滅状態でした。恐らく、ここ以外に残っている国はないかと思われます」
「……地下に逃げ込んだ…と?」
「私はそう思います。しかし、それは先進国だけに限られ発展途上国だった国はまだ地上で隠れながら暮らしているかと…」

響木は重々しく、そうかと答えた。
この世にエネミーが現れて30年が経とうとしている。人間を襲い、殺し尽くす『神の終止符』とまで言われた化け物だ。しかし、10年前にそのエネミーをコントロールすることに成功した所がある。それがエルドラドだ。エルドラドはエネミーをコントロールすることにより、世界征服を目論見始めた。そのため、結果的には『エルドラドの人間は殺さないが、それ以外の人間は殺す怪物』となってしまったのである。それを殲滅するが特別戦闘部隊の仕事だ。しかし、特別戦闘部隊には条件がある。それは…

「豪炎寺よ…いい加減ドーピングモルモットとペアを組まないか」
「お断りします」
「特別戦闘部隊はドーピングモルモットとペアを組み、エネミー殲滅の任務を遂行すること、そう義務づけられているんだが…」
「子供を俺の任務に巻き込みたくありません。邪魔なだけです」
「だが、ここに所属するドーピングモルモットは皆自分の意志でエネミー殲滅を目標としている。それに、普通の子供扱いをすると彼らに失礼だ。存在を否定するようなことを言わないでやってくれ」

まるで自分の孫のことのように弁解する響木。響木が一番苦しんでいるのだろう。ここを仕切る人間として、ドーピングモルモットの協力が必要不可欠だが、まだ未発達な子供を軍事利用しているのだ。子供なのに子供扱いができない。子供なのに大人でも音を上げる任務を任せてしまう。だから、世界中の誰もがドーピングモルモットを指して言うんだ。
『化け物』だと…

「まぁ、お前がそう言うことはこっちも想定内だ。ならばここはアレを利用するしかない」
「…『アレ』?」

疑問に首を傾げると、響木は息を吸い込みこう叫んだ。

「革命機関レジスタンス戦闘部隊所属、特別戦闘部隊長、豪炎寺修也!!お前にはドーピングモルモットとペアを組み、連携が取れるまで全ての任務を取り上げることとする!!」
「なっ…」
「お前は義理堅い男だ…約束は守るだろう?」
「っ………はい…」
「よろしい。行って良いぞ」


豪炎寺は重々しい足取りで室長室をあとにした。


***

「なぁ、鬼道。俺の記憶が正しければソロのドーピングモルモットは瞬木しかいない気がするんだがどう思う?」
「なんだ?やっと響木さんに命令されたのか?」

高速でタイピングしている鬼道の隣に座り、頬杖を付いて画面を見つめる。豪炎寺は室長室を退出したあと、そのままフラフラと鬼道のいる情報部隊第一作戦室へと足を運んだ。ここは床一面紙だらけでおまけに徹夜明けで何人も床に転がっている。異常な光景だが、ここにとっては、情報部隊にとっては日常茶飯事だ。死体のように床に寝ている部下などお構いなしに鬼道は自分の仕事を進めている。

「ドーピングモルモットと組んで連携を取れるようになるまで任務禁止だとさ…いい迷惑だよな」
「まぁ、トップと言えどもソロだったら死ぬかもしれないからな」
「俺はダメで瞬木は大丈夫と?」
「お前は人間だ」
「…………」

そこで初めて鬼道は豪炎寺の顔を見た。豪炎寺も一応理解しているつもりだ。自分は人間だ。人間だから致命傷を負えば死ぬ。すぐに死ぬ。人間は弱い生き物なのだから。わかっている、そう返せば鬼道は黙って作業を再開した。

「お前の場合、特別戦闘部隊だからナンバーズの誰かと組んだ方が良いだろう」
「ナンバーズ?」
「…豪炎寺、放浪癖は治した方がいいぞ?」
「放浪癖なんてない。任務で飛び回ってるからデータがないだけだ」

豪炎寺はずっと任務で世界をとびまわっているため、本部にいることが少ない。ただ単に興味がないのというのもあるが、あまり深く知って今までドーピングモルモットだと軽くしか認識していなかった特別部隊のメンバーとの関係を崩したくないのだ。それに加え、同じ人間なのにまるで品定めするようにあつかうのが豪炎寺は気に入らないのだ。元は人間、しかもまだ子供なのに、と。

「レジスタンスに登録しているナンバーズは9人中5人。内3人はすでにペアを組んでいて1人は…まぁ、瞬木だな。もう1人は調整中だそうだ」
「調整中か…」
「瞬木が嫌なら必然的にその調整中の奴になるが…」
「…まぁ、実際に会ってから決める」
「それが一番いいな。一応瞬木にも声を掛けておけ」
豪炎寺は立ち上がりそのまま作戦室を出た。久しぶりに帰ってきたため他の特別戦闘部隊のメンバーに会うのは明日でいいか、と自分の中で結論づけた。戻ったらシャワーを浴びて寝る、そう決め込んでノロノロと歩いていると曲がり角で勢い良く何かとぶつかった。

「悪「ごめんなさいっっ!!!」」豪炎寺の声を遮って勢い良く真っ白な頭を下げる。そして、また勢い良く頭を上げる。それを見た豪炎寺は無意識に思った。小さい、と…。その小さい子供は癖のある白銀色の髪に深海色大きな瞳、レジスタンス指定の制服に長いマフラーを身につけている。見た目は幼過ぎる子供のように見えてもおかしくはないだろう。しかし、どことなく大人びた雰囲気を醸し出しているその少年は、何も言わずに自分を見つめている豪炎寺を覗き込みオロオロとしていた。

「あの、大丈夫ですか?ごめんなさい、えっと…鬼道くんって何処にいるかご存知ですか?」
「あ、あぁ…鬼道か?あいつならそこの第一作戦室にいるぞ」
「ありがとうございます!」

その少年はぺこりとお辞儀をしてそのまま走り去ってしまった。それを見送った豪炎寺は先程の少年の言葉に違和感を覚えた。そして、

「鬼道『くん』っ?!!」

豪炎寺は遅れながら誰もいない廊下でツッコミを入れた。





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