「吹雪、しっかりしろー」
「うぅうううぅヴぅぅ…」
「ふーぶーきー」
「…吐きそ……」
「年末だからって飲み過ぎだぞ」

東京の居酒屋にて、レジェントジャパンのメンバーで飲み会に来ていた。試合の打ち上げを兼ねての忘年会だ。年越しは自分達の家で過ごすことになっており、忘年会が始まったのは夕方からだった。皆、まだ明るいのにも関わらず飲んだり食ったりで、夜9時を回る頃には綱海と染岡の大熱唱が始まり、佐久間と風丸が安らかに眠ってしまった。ザルは円堂と不動と俺しかいないが、俺は車で来ていたためアルコールは飲まなかった。完全に酔っぱらってしまった4人以外は何とか生き残っていたが、最後の最後で鬼道と吹雪とヒロトが潰れてしまった。

「…ヒロトもなのか?」
「うん、俺も」
「なんか大丈夫そうに見えるが…」
「あはは、よく言われる。俺さ、顔に出ないんだよね。でもぶっちゃけね、超ゲロりそう」
「わかった。もう喋るな」

爽やかな顔で嘔吐しそうなんて言われても困るんだが。とりあえず、生き残っているのは俺達ザル組と酒より食い物な壁山だけだった。11時を回ったとこで解散だったはずだが、予想以上の潰れ具合に10時半で解散になった。

「えーと、俺が綱海と染岡を送って、不動は鬼道と佐久間をよろしくな。壁山は風丸で豪炎寺は吹雪なー」
「ヒロトは?」
「俺は緑川が迎えに来るから大丈夫だよ…うぇっ」
「笑顔でうぇっとか言うな。あと、お前も横になっとけ」
「うん、そうする」

ごろんと横になるとヒロトは吹雪を抱き枕代わりのように抱きしめた。吹雪は余裕がないのか、されるがままに抱き締められていた。まぁ、それを俺が黙っているはずがなく

「おいヒロト。吹雪だって酔ってるんだぞ。離れろ」
「……妬いてるの?」
「…………」

本当に酔ってるのか?コイツ…

なんだかんだでタクシー2台と緑川が到着してそのまま解散になった。吹雪は俺の車の助手席に座らせて椅子を倒して寝かせてやる。とりあえず、車内で吐かれては困るからビニール袋を吹雪の手に握らせて車を発進させた。

「吹雪、大丈夫か?」
「……無理」
「俺の家でいいんだよな?」
「だって…荷物、ごぇ…家に…ある、し」
「わかった。ヤバいんだな。寝てて良いから」
「ぅ、あ…がと…」

そう言うと吹雪は吐き気から逃げるように眠ってしまった。俺は自宅へと車を走らせた。









***




無事に自宅のマンションに到着して顔を真っ青にして死んでいるように眠る吹雪をおぶり、自室まで運んだ。おぶっているとき、吹雪の体重の異常な軽さと手足の細さに驚かされながらも落とさないように、そして起こさないようにゆっくりと自室のベッドに一直線に向かい、静かにそこに下ろした。とりあえず、着ていたコートを脱がしてハンガーに掛ける。そして、寒くないように布団を掛けて自室から出た。

「風呂…入るか」

時間は11時を回っていた。今から風呂に入れば年越しには間に合うだろう。風呂から上がったら時間があれば蕎麦でも作ろうか。そんなことを思いながら俺は脱衣場へと向かった。






「…ん?、はぁ?!」
「ごーえんじくん…お風呂…」

髪を洗っていると風呂に入ってきたのは吹雪だった。しかも全裸でまだ顔色は悪い。ふらふらとしながら俺の隣にしゃがみ、壁にもたれかかった。

「まだ気持ち悪いんだろ?!無理するな」
「やだー!!ごーえんじくんとおふろ入る!!」
「叫ぶな叫ぶなっ…響くから」
「うぅー…」
「こっちこい。洗ってやるから」
「はぁい…」

返事をすると吹雪はこてんと俺の太ももに頭を乗せる。…洗いづらいな。

「吹雪、浴槽に入って頭だけこっちに向けろ」
「んぅー…」

ふらふらと立ち上がると掛け湯してなだれ込むようにお湯の中へと入った。だぼんっと盛大な音がしたが、お湯はあまり減っていなかった。吹雪自身が軽かったからだろう。吹雪はというと、うつ伏せになって浴槽に浮いたまま動かなかった。抱き上げ、腕を浴槽の縁に引っ掛けて吹雪を起こそうとコイツの頬を引っ張った。

「おい、死ぬぞ」
「……ぁー、意識とんでた…」
「だろうな。ほら、頭こっち向けろ」
「んー…」

吹雪は首を下げて完全に此方に頭を向ける。真っ白な髪からポタポタと雫が伝う。いつもは隠れている項が髪に張り付きながらも完全に丸見えになっていた。

「……っ」

なんとなく見てはいけないものを見た気分になり、吹雪用のシャンプーを全力でプッシュし、全力で吹雪の髪を洗い始めた。

「あっ、あっ、あっ、んっ…」
「………」

全力であるが故に吹雪は必然とがくがくと頭を揺さぶられることになる。その中で漏れる声が媚声に聞こえなくもない。理性諸々かなりヤバくなりそうだったから俺は勢いよくお湯を吹雪の頭にかけた。再びぐっしょりと濡れた髪は泡を完全に洗い流し、キラキラと光っていた。吹雪はぶるぶると首を左右に振り、犬のように水分を飛ばした。

「こらっ、お前は犬か」
「犬じゃありませーん、おおかみですー。がおー」
「リンス、するか?」
「んー、お願いー」

へにゃりと笑うと吹雪は再び頭を此方に向けてきた。そして、そのままこの酔っ払いの身体も洗ってやり、タオルで拭いてもやって服も着せてやった。その間、吹雪は酔いのせいで意識がぼやぼやとしていた。






「炭酸、飲むか?」
「んー、のむー」

ペットボトルを吹雪に向かって軽く放り投げたが、やはりまだ酔ってるようで額でキャッチしていた。

「っ〜!!っっー!!」
「すごい音がしたな。大丈夫か?」
「いたぃ…」
「だろうな」

涙目で少し赤くなった額を撫でてやると吹雪は再び柔らな笑みを返してくれた。そして、床に転がったままのペットボトルを拾い上げて渡してやるが、力が入らずキャップを開けることが出来なかったようだ。挙げ句の果てにはキャップにかじり付きだした始末だ。俺はその酔っ払った狼からペットボトルを取り上げてキャップを開けてやった。

「ありがとー」
「あぁ、でもかじり付くのは止めような。大人として」
「はぁい」

元気良く返事をした後、そのまま勢い良く炭酸をがふ飲みをして咽せていた。呆れながらも背中をさすってやると微かな声で『たんさんだ…』なんて聞こえてきたから『俺はちゃんと言ったからな』と言った。

吹雪に寝室に行くか?と聞いたがぶんぶんと首を振って否定。仕方がないからソファーにそのまま座らせ、俺はキッチンで年越しそばを作ることにした。日付が変わるまでまだ15分もある。昼に下準備を終わらせていたから、あとは麺を茹でるだけだ。
吹雪はというと、紅白を観て辛うじて起きてる状態だった。

「蕎麦…?」
「あぁ、お前は食わないだろ?」
「食べたかったな…豪炎寺君の蕎麦…」
「明日また作ってやるよ。その時は俺も酒飲むから」
「うん…」

適当にチャンネルを変えるとカウントダウンが始まっていた。吹雪は何も言わず、ぼーっとテレビを観ているだけだ。吐き気がまだ残っているのだろう。車内で寝ていた時よりも顔色はましになったが、真っ青なのは変わりない。

「5、4、3、2、1……」




『あけましておめでとうございます!!』





「あけましておめでとう、吹雪」
「あけましておめでとー、ごうえんじくん…」

お互いにそう言うと吹雪は平然に



「姫初めは今日の夜がいいなぁ…」
「ごふっっ!!!?」



新年早々蕎麦を噴き出した俺なのでしたまる












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