「ミキシマックス、コンプリート!!!」

オレンジ色の光が消えた瞬間、身体の内側から力が漲ってきた。これが…吹雪の力なのかと全身で感じていると吹雪が俺の背中を目掛けて突進してきた。

「いて……」
「豪炎寺君…肌白い…」
「お前だからな」
「眉太い…」
「お前もだろ」
「前髪が…」
「お前の影響だろ?」

ぐりぐりと額を擦り付けながら俺の変化したところを述べていく、吹雪にツッコんでいく。なんだ、自分みたいで恥ずかしいのか。後ろから抱きつかれていたんじゃ、身動きが取れないからされるがままに抱かれているしかない。

「ふぶ………、っ!?」

くらりと突然目眩がして吹雪の方に倒れ込んでしまった。さすが熊殺しというべきか、吹雪は完全に力が抜けた俺を受け止めてその場に座らせてくれた。

「豪炎寺君!!大丈夫?!」
「頭が…くらくらする…、っ!!」
「豪炎寺君!!」
「くそっ、頭痛まで…!! 」

ずきんずきんと俺の脳を蝕むかのように痛みはじわじわと広がっていく。なんなんだこれは。ミキシマックスの影響なのか?目も開けていられなくなって俺はそのまま目を閉じた。
***







「ここ、は…?」

ふと目を覚ますと、そこは何もない真っ暗な場所だった。確か俺は目眩と頭痛に耐えきれなくなって目を閉じて…。……まさか、そのまま気絶したのか?な、情けない…。

「それにしても…」

真っ暗だ。明かりも何もない。ぐるりと辺りを見渡した見ると真後ろに一本の大きな桜の木がある。花は満開。ひらひらと薄桃色の花びらが雪のように舞っている。引き寄せられるように桜の木に近付いて下から見てみた。桜は風や花びらの量など関係無く、ただただ舞い続けている。手を伸ばしてひとひらの花びらを掴むとそのリアルさに少し驚かされた。夢にしては現実的すぎるな。桜の色、形、感触…全てが本物に近い。それに、心なしか少し冷たい。

「よぉ、久しぶり」
「!?」

目の前から声がするが、人らしきものは見当たらない。警戒していると音もなく木の後ろから一人の少年が出てきた。

「………アツヤ」
「おぅ」
「……………」
「んだよ、何か言えよ」
「いや、その…ここはどこだ?」
「お前の中。」
「は?」
「お前の中。」

短く説明され、さらに混乱に陥る。とりあえず、「何故?」という疑問が俺の頭の中を埋め尽くした。アツヤは吹雪が作り出した人格…なんで俺の中にいるんだ。さっぱりだ…あ、

「そうか、ミキシマックス…」
「正解。兄貴のオーラがお前の中にある今、俺がお前の中にいてもおかしくないだろ?」
「じゃあ、さっきの頭痛は…」
「それは、俺のせいでもある」

くるりと背を向けて歩き出したアツヤに慌てて着いていくと突然の桜吹雪に反射的に目を瞑ってしまった。手やら顔やらに当たる桜の花弁が地味に痛い。そして、桜の花弁はいつの間にか溶けるように雪へと変わっていた。吹雪が激しさを増す。そんなのも諸ともせず、アツヤはどんどん前へと進んでいく。

「アツヤっ、…待て…!!」

あと少しでアツヤの肩を掴めそうだったが、突然謎の浮遊感が身体を襲った。一瞬の出来事だった。ふと目を開けると、何故か俺は車内にいた。運転席の右側の後部座席に座っている。やけに低いすぎる視線に驚き、ペタペタと自分の顔を触ってみた。明らかに自分の顔ではない。

「お前は、今だけ士郎だ」

隣から聞き覚えのある声、

「アツヤ…」
「これは、士郎の記憶。あいつが全部失った日の記憶」

俺が知っているアツヤとは多少異なっている小さな少年は何かを諦めたような目で真っ直ぐと真っ白な雪景色を見つめていた。外見は本物の『吹雪アツヤ』だが、中身は吹雪の中のもう一つの人格、『アツヤ』だ。

『二人とも大活躍だったわね』
「?!」
「気にするな、これはただの記憶だ。ほっとけば会話は進む」
「そう、か?」

そこで俺達の会話は途切れた。話すことは沢山あるはずなのに、何故か言葉が出てこなかった。多分、吹雪家の会話が気になるのかもしれない。
今、吹雪の中には俺が入っている。顔こそ見れないものの、現在再生されているこの記憶は吹雪の家庭環境が幸せだった頃の物だ。これが、本当の吹雪なのかもしれない。今と違って儚げのない、普通の無邪気な子供。吹雪にもこんな頃があったのかと思う反面、結末を知っている俺にとってはとても苦しかった。


『じゃあ、二人が揃えば完璧ってことだな!』
「完…璧…?」
「父さんの、最後の言葉だ。だから、俺達は固執した。その『完璧』って言葉に」
「吹雪の父さんの、…最後の言葉…」
『二人揃えば…』
『完璧になる。完璧になってもっと強くなれる…!!』
「………」
「おい、豪炎寺。後悔してんなら、ふざけんじゃねぇぞ。自分の言葉に責任持て」
「すまない…」

そうだ、今後悔したって遅い。それに、吹雪は間違った完璧を目指していた。自分とアツヤ、二人だけの完璧を…。吹雪はずっと一人だったから、アツヤしかいなかったから、その言葉に固執したんだろう。仲間がいるのに。お前をいつも支えてくれる仲間が。でも、ちゃんと吹雪は気付いてくれた。俺の手を取って仲間を見てくれた。そして、吹雪は生まれ変わった。

「?、なんだこの音…」
「来たか…」

何か重い物が此方に近付いてくる音がする。ふと、アツヤ側の窓を見上げる。よくは見えないが白い波が此方へと凄い勢いで向かってきていた。


雪崩…まさかっ…


「アツっ…!!」
「言っただろう?士郎が全てを失った日の記憶だと」


吹雪の母親の悲鳴と共に真っ白な波が車に襲いかかった。白色なのに、雪の下は真っ黒だ、それが俺が思った最後の言葉だった。










「あんなに、鮮明に覚えているんだな…吹雪」

足に力が入らない。雪崩の音と吹雪の母親の悲鳴が頭から離れない。初めて見た雪の裏側。真っ白な闇。

「アツヤ…どうして俺に見せたんだ?」
「…さぁな」

哀しげに光る橙色の瞳。マフラーは小さくはためく。
アツヤは溜め息を吐くと目の前でしゃがみ、俺の肩を掴む。そして、その目で口を開けた。

「俺は、士郎の『悲しみ』や『苦しみ』、『寂しさ』の塊だ。だから、お前に身を持って知って欲しかった。士郎の…今までを」

そう言うと、コツンと額と額が当たる。その瞬間、勢い良く何かが流れ込んできた。『悲しみ』『苦しみ』『寂しさ』全部が俺の頭の中に。胸が押しつぶされそうだった。俺の目からはぼろぼろと涙が流れていく。吹雪は、こんな悲しみをずっと背負っていたのか。独りでずっと…。

「士郎はさ、本当に寂しがりやなんだ。だからさ、もう独りにさせないでくれ…ちゃんと側にいてくれ……だから、その…なんつーか…」
「あぁ、約束しよう。絶対に側にいる。たとえ、独りにさせたとしても、ちゃんと帰ってくる。俺は吹雪の元にちゃんと帰ってくるから…だから、もう泣くな」

お前も、一人にはさせないから

「っ…!!馬鹿野郎っ!!」
「教えてくれて、ありがとう。士郎」
「なっ…」
「士郎」
「……礼だけは言っとく。俺の方こそ、ありがとな」


俺は初めてアツヤが吹雪のように綺麗に笑ったのを見た。











夢を見た。桜吹雪が舞い散る春を風景に、兄弟が手を繋いで光の中に消えていく夢だ。

『おまえは大きいのにおれの弟なんだな』
「あぁ、俺はお前の弟だ。お前が死んだ後に俺は生まれたんだからな」
『ふーん?…でも、おまえはがんばったよな』
「何が?」
『無理しておれになってくれて、ありがとう。兄ちゃんを支えてくれてありがとう』
「………っ」
『もう、兄ちゃんはだいじょうぶだから。今度はさ、気長に待ってよーぜ!サッカーでもしてさ!』
「…あぁ」
『まずははじめましてからだなっ!はじめまして、吹雪アツヤです!!お前は?』
「俺は、俺の名前は……__

















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