AM 11:38
「吹雪ー!!見つけたぞー!!」
「げ、キャプテン…!!」
屋上で鬼道と別れた後、吹雪は円堂に遭遇してしまっていた。さっき鬼道から忠告を受けたばかりなのに早速本人と鉢合わせしてしまったのだ。
「あ、待て!!吹雪!!」
「嫌だ!!」
吹雪はぐるりと回れ右をすると颯爽と逃げ出した。メイド服がなんだ。そんなのどうだっていい。とりあえず、サッカー部員からは逃れなきゃ。
そんなことを思いながら全力で廊下を走っていると突き当たりに豪炎寺ではない、この企画中に最も出会いたくない人物が指でビニール袋を回していた。
「あ!風丸!!吹雪を捕まえてくれ!!」
「ん?」
「げっ…」
それは吹雪と同じ俊足の持ち主、風丸だった。
「か、かかかかか風丸君っ…!!や、駄目だよ…!!駄目だよ?!」
「風丸ー!!」
「んー…」
少し考える素振りをした風丸は吹雪を見つめる。
「メイド服、似合ってるな吹雪」
「大きなお世話だよ!!」
風丸はそう言うだけで追いかけてはこなかった。きっと真面目な彼のことだ、円堂が自分で捕まえないと意味がないと思ったのだろう。そのまま吹雪は円堂を振り切り、二階の窓から飛び出して一階の渡り廊下に着地。そのままプール裏へと逃げ込んだ。
「あともうちょっと…」
頬を流れていく汗を拭いながら、吹雪は壁にもたれかかった。時計を見てみると残り時間はあと20分だ。これを逃げ切ればネズミーランドのチケットは吹雪のもの。豪炎寺君と行くんだと思った瞬間、自分が今喧嘩中だと言うことを思い出した。
「……豪炎寺君、なんであんなに怒ってたんだろ…?」
僕、何か悪いことしたのかな?嫌われたのかな?それともこんな姿見て幻滅したのかも…
心配になるとどうしてもマイナス思考に走ってしまうのが吹雪の癖だ。じわりと目に涙が溜まっていくのがわかる。迷子になった子犬のように小さく体操座りをしていると足音がこちらに向かって近づいてきた。ピタリと止まったのがわかると吹雪は顔を上げた。
「はっ、はっ…ふぶき…」
「ご、えんじくん…」
息を切らした豪炎寺がそこにいた。
「吹雪…その、ごめ「うわわわわわわわわっ?!来ないでぇ!!豪炎寺君来ないでぇえええええ!!!」
「はぁ?」
いきなり猛ダッシュで逃げしだした吹雪を呆然と見送りながら豪炎寺は行き場の失った手をゆっくりと下ろした。とりあえず、吹雪が何故自分を拒絶したのか理解できない。メイド服を着ていたから?…今更だろ。色々考えてみていたら一つの答えにたどり着いた。
「なるほど。面白い…!!」
そう呟くと同時に豪炎寺は吹雪が走っていた道を走り出した。