子供の頃、七夕というものを信じた人はいるだろうか?




5歳のとき僕は短冊に『あつやとさっかーせんしゅになりたい』と書いた


6歳の時は『あつやとなかなおりしたい』と書いた


7歳では『お父さんとお母さんとアツヤをかえしてほしい』と書いた


13歳までそれは続いた。最後を少し変えてみたりしたけど、やっぱりお願いは叶わなかった。
家に飾った笹にその願い事だけを書いた短冊を大量に飾ったりしてみたが、やっぱり叶うことはなかった。







14歳の時、相合い傘を書いた
お願い事なんてなかった僕は悩んだ結果、ひらめきで思い付いたことをそのまま短冊に書いて飾った。その後、相手から怒られて仕返しもされたけど。






あれから10年経った


















「え?七夕?」
「はい。今日は七夕なんで吹雪先輩も何かお願い事書きませんか?」
「わぁー、短冊に願い事書くなんて10年ぶりだよ」
「先輩も年ですね(笑)」
「失礼な!僕はまだピッチピチの24歳だよ!」
「どうだかー」

こらー!なんて怒ると雪村は風のように逃げてしまった。まぁ、実際怒ってもないし腹立った訳でもない。
溜息を吐きながら部室の壁に凭れて、なんとなく短冊を眺める。水色…あの時と一緒


ふと10年前の記憶が過ぎる。願い事が思いつかなかった僕は皆が何を書いたのか見て回って、最後に訪れたのが彼の部屋で…その後のことはあまり覚えてない。とりあえず、僕の短冊がバレて仕返しされたぐらいしか…



「願い事なんて、叶う訳ないって知ってたのに」

なんで相合い傘なんて書いたんだろう?




僕は携帯を取り出して、とある通販サイトにアクセスした。

























「聖帝、今日は七夕ですね」
「そうだな」
「懐かしいですね。昔、皆で短冊に願い事書きませんでしたっけ?」
「…覚えてないな」

自分の話を流しながら仕事を続けるイシドに虎丸はやれやれと言いたそうに溜息を吐いた。

「そうそう、さっきあなた宛てに花束が届いたんですけど…いりますか?」
「私宛てか…?」

書類関係なら理解できるが、聖帝の自分に花束が送られるのは初めてだった。虎丸に持ってきてくれと頼んで自分は仕事を再開。しばらくすると虎丸が少し小さな花束を持って帰ってきた。


「その花は?」
「クロッカスです。聖帝は花には詳しくないんですね」
「虎丸は詳しいんだな」
「母のプレゼントとかに贈ったりしてましたから。こういう贈り物の花には結構花言葉が込められていて面白いんですよ?」

イシドは渡されたクロッカスの花束を眺めた。しかし、何故こんな時期に花束を?しかも、どうしてクロッカスを選んだのか…


「知ってます?クロッカスの花言葉は










『あなたを待っている』ですよ」


「…!!」





僕はいつでも待ってるよ


君は絶対に帰ってくる


そう信じてるから







「吹雪…?」
「さぁ?どうでしょうねー」
「…他に花言葉はあるのか?」
「自分で調べてください。その方が面白いですよ」

にやにやと嫌らしい笑みを浮かべながら虎丸は奥の部屋に消えていった。恐らく書類を取りに行ったのだろう。仕方がない、と思いながらイシドは検索サイトでクロッカスの花言葉を調べた。

「…!!…アイツっ…」









クロッカスの花言葉は『あなたを待っている』と






『青春の喜び』『愛をもう一度、私を裏切らないで』








「絶対…絶対帰ってくるからな…吹雪」

イシド…豪炎寺は祈るように花束を持ち、そう告げた
















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