「雨…止まないな」
「そうだな」
猫に名前を付けた後、昨日の車内と同様に作戦会議を開いた。1年だけだから意味はないが、それでも俺達は中学の時に戻ったかのように楽しんだ。時間も忘れて会話のピークも過ぎた頃、鬼道が窓の外の雨を見つめていた。
「吹雪、テレビを付けて良いか?」
「え?うん、いいよ」
どうぞ、と吹雪からテレビのリモコンを受け取った鬼道はテレビを付けてニュース画面にチャンネルを変えた。なんだなんだと、円堂と風丸もテレビに食いつくように観ている。突然、テレビから警報音が流れた。
『雷門町に大雨洪水警報が発令されました。雷門町に大雨洪水警報が発令されました。』
「「「え?」」」
「…これは…」
「やけに雨がうるさいと思ったら…」
鬼道の言うとおり、確かに雨音はすごかった。けど、これは…
「俺達、帰れるのか?」
俺の言葉によって静まり返った空間。時刻は5時前、外は夜かと思うくらい真っ暗になっている。白夜は呑気にみゃん、と鳴いた。
「俺と円堂は河川敷を横切るからな…川が氾濫してたら危ないよな…」
「流石に今日は車まわせないぞ?」
「俺のマンションもかなり遠いし…」
「「「「…………。」」」」
これは、完全にヤバくないか?
俺達は完全に家に帰れなくなってしまった。小さく円になって重大なプチ会議を始める。どうする?、命がけで帰るか?洒落にならないぞ?野宿か?いや死ぬってそれ。
しかし、ここの家の主が冷や汗だらだらの4人にとても有り難い提案を出してくれた。
「あ、だったら泊まっていきなよー」
「え?」
「いいのか?」
「うん。僕の部屋無駄に広いし、3人は寝れるよ。一人は僕と一緒にベッドに寝ることになるけど…」
「敷布団はあるのか?」
「二人分なら…多分、三人ギリギリ入ると思う…」
ありがとう…吹雪様!!!
俺達は同時に土下座をした。
***
「とりあえず、泊めて貰うんだから俺達で夕飯ぐらい作るぞ」
「おぅ!!」
「円堂、お前にだけ特別なミッションを与える。特別だ。お前にしかできない」
「なんだなんだ?なんだ鬼道!」
「お前は風呂掃除をするんだ。これはお前にしかできない。お前にしかな…!」
「!、わかった!!やってくる…!!」
こくり、と頷くと円堂は居間を飛び出した。…乗せられたと気付かない円堂に風丸は何とも言えない表情をしていた。
まずは食材の確認ということで、冷蔵庫を開けていった。
「野菜、少なくないか?」
「トマトに、ブロッコリーに、パプリカにパプリカパプリカパプリカ…」
「パプリカ多すぎだろ!」
「パプリカ美味しいんだよ?!」
「ピーマンを食え」
「ピーマンは炒めないと美味しくないからヤダ。めんどくさい」
めんどくさがりな吹雪に溜息を一つ。鬼道と風丸は黙々と冷蔵庫の中を見ていく。
風呂場から円堂の叫び声と盛大に転ぶ音が聞こえたけど聞こえないふり。ん?何か聞こえたか?
吹雪は白夜とパプリカで遊んでいる。コロコロと転がすパプリカに白夜は食いつく。猫もパプリカが好きなのだろうか?
「………吹雪」
「ん?、何ー?」
「肉、多くないか?」
野菜の二倍の量はある冷凍された肉…。吹雪は、あー…と罰が悪そうに台所に戻ってきた。頭に白夜を乗せて。
「最近、野菜しか食べてなくてさぁ…」
「珍しい…あの吹雪がか?」
「FFIの時はよく食べてたよな?染岡から奪って」
「こっちに来てからは極力食べないようにしてるんだ…うん、」
歯切れの悪い吹雪は必死で俺を見ないようにしている。馬鹿だなぁ、逆にわかりやすいぞ。とりあえず、吹雪の額に軽くチョップを入れてテーブルに出された肉を取る。豚、鶏、牛…沢山の肉がまだテーブルの上に残っている。よく見れば賞味期限はギリギリだ。この人数だし、使ってしまうのが得策だろう。
「今夜は肉だな」
そう呟くと、吹雪はとても嬉しそうに頷いた。