「輝君、委員会なんだ」
「うん、ごめんね。先帰ってていいから!!」
ぱたぱたと忙しそうに駆けていく輝君を見送った後、俺は校舎をぶらぶらと歩いていた。部活はないし、一人でライブハウスに行くのも気が引ける。スタジオは遠い。とりあえず、放課後は暇だ。
「早く帰ってもチビ達に振り回されるしな…うーん…」
暇つぶしの方法を考えながら校舎の壁に沿って歩いていると、ふと大きな窓が視界をよぎった。大きな窓が気になった訳ではない。窓際に座っている人物に自然と惹かれたのだ。
「(女…?)」
桃色の長い髪を二つに束ねて後ろに放り出しているような髪型、丸くて碧い瞳、長いまつげ。こんな俺でも感心するような容姿だった。縁に手を付いて図書室の様子をうかがってみるが…身長が足りない。
「ぅおぉぉぉっ…!!…わっ?!」
いきなり開いた窓に驚いて尻から落ちそうになるのは免れたが、俺は手を離してしまった。嫌な予感がして開いた窓の方へ顔を上げると
「何…してるんだ?」
苦笑しながら、あの女子がこちらを見ていた。ってあれ?女子?
「制服…」
「制服がどうした?」
「あんた…女なんじゃ…いってぇええええええ!!!?」
言い終わる前に脳天目掛けて結構硬い本の背表紙が命中した。
「初対面に失礼すぎるだろ!!くっそぉ!!」
「どっちがだよ。人のこと女子呼ばわりしといて挙げ句の果てにはタメ口かよ一年」
本で殴られた頭をさすりながら窓から顔を出している女面した男子の先輩を睨み付ける。先輩はふふんっと勝ち誇ったような笑みを浮かべている。無性に腹立つ。
「それに、別に初対面じゃないぞ?」
「はぁ?」
「こないだお前、校舎の角で人とぶつかっただろ?あれ俺」
「…………え、えぇえええええええええぇぇええ??!!」
あの時のピンクの髪をした2年の先輩が…?
「マジかよ…ラブコメかよ…」
「アホか」
今度はチョップが叩き込まれた。
「痛てぇっつてんでしょ?!何なんですかあんた!!鬼か!!鬼なのか!!」
「知ってるか?悪戯して突っかかる奴ほど面白い奴はいないよ」
それは嫌でも知ってますけど!!それは俺の専門分野だし!!
再び睨みつけると先輩は窓の縁に肘をついて楽しそうに俺を上から見ている。畜生、女面じゃねぇか…!!
「えーと、お前…なんだっけ?狩屋?」
「………狩屋マサキです」
「俺は霧野だ。霧野蘭丸。狩屋、暇なら図書室来いよ、おすすめの本教えてやるから」
断ったってこれから暇だしな……
………………。
「……き、今日は偶々暇なんで行ってあげないこともないですよ」
某月某日、俺に女面の先輩ができた。