「お兄さーん!朝だよー!!」
「んん…」
「あーさーだーよー!!あいたっ」

目覚まし時計を止めた…つもりだが、何故かこの目覚まし時計は動く…動…あ、

「…しろう?」
「おはようお兄さん、気持ち良い朝だね」









「士郎、ティッシュを取ってくれ」
「はい、どうぞ」
「ん、ありがとな」

士郎からティッシュを受け取って口を拭う。そして、士郎が作ってくれたサンドイッチを頬張った。うん、美味い。

「美味いぞ、士郎」
「本当に!?」
「あぁ、本当に美味い」
「えへへ、よかったぁ」

士郎は嬉しそうに微笑んで『いるのだろう』。
何故このような言い方なのかと言うと、俺は目が見えない。3年前に失明したからだ。原因は不明、勿論治るかどうかもわからない。サッカー選手だった俺は引退を余儀なくされた。当たり前だ、目が見えないとサッカーなんて出来るわけがない。普通に生活するのだって困難なのだ。

その時出会ったのが『吹雪士郎』。当時まさかの6歳。こいつもまた俺と同じ『独りぼっち』だった。北海道に住んでいたらしいが、その時雪崩の事故に巻き込まれて両親と弟を亡くしたそうだ。一人になってしまった士郎は東京に住んでいる親戚に預けられていたのだが、親戚の人は皆仕事で忙しく滅多に帰ってこなかったらしい。学校の転校手続きもせずに士郎を放置。限界を感じた士郎は俺に『一緒にいて』と頼んできた。

事情を知った俺は士郎を養子として迎え、一緒に住むことになった。士郎はこのことに凄く感謝しているようでお礼に目玉をあげると言われた。流石にそれは駄目だと断ると「受け取ってくれないなら自分でえぐり出すけどいーい?」だなんて恐ろしいことを言うもんだからイエスと答えるしかなかった。





そして先月、眼球移植の手術を受けた。眼球の大きさは今の医療科学でどうにでもなると言われ士郎の左目に俺の右目を、俺の右目に士郎の左目を移植した。

手術は成功、明日病院に行って包帯を取ってもらう予定だ。






「明日が楽しみだね、お兄さんっ」
「あぁ、そうだな。やっとお前の顔が見れるんだ…楽しみで仕方がない」

士郎を撫でてやると擽ったそうに身をよじらす。本当に息子ができたみたいだ
「ほら、学校行ってこい。遅刻するぞ」
「はぁい」

かたんっとテーブルから離れるのが聞こえ、足音が遠くなる。そして、部屋の戸が閉まる音が聞こえたと同時に士郎がリビングが戻ってきた。

「お皿は浸けたままでいいから」
「いや、俺が洗っとくよ。いつも悪いな」
「えへへ、どういたしまして。じゃあ、よろしくね、いってきます!」

頬に柔らかいものを押し付けられたら感覚。これは士郎の唇だ。何故か家では「いってきますのキス」をするのが日課になっている。…将来誑しになりかねないから躾には気をつけているはずだが、どうしても士郎のペースに乗せられているのが現状である。自分でも恥ずかしい。

「いってきます」
「はいはい、いってらっしゃい」

俺達の朝はいつもこのようにして始まるのだ。







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