「でこ痛てぇ…」
「え?大丈夫?」

音楽棟にて、俺と輝君は軽音部の部室で先輩達が来るまで宿題を片付けていた。しかし、さっき曲がり角で二年の知らない先輩とぶつかった際にぶつけてしまった額がまだ痛む。運悪くボタンに当ててしまったのだろうか?

「ちょっと見てもいい?」
「んー」

イチゴ味のポッキーをくわえたまま輝君に額を見せた。ていうか、この新作のポッキーうめぇ。

「ちょっと赤くなってるね。冷やす?」
「いや、いいよ。しばらくすれば引くだろうし、前髪で隠れるから赤くなってるのは気にしなくていいしね」

そっかー、と言って輝君は自分の宿題を再開した。クラスが違うと出る課題が違うから不便だ。頭の良い輝君の宿題を写すことができない。
そういえば、と輝君は思い出したように宿題を中断。俺の方に再び向き直ってシャーペンをマイク代わりかのように口元に近づけられる。

「さっき曲がり角で狩屋君がぶつかった人って霧野先輩だよね?何してたんだろうね?」
「は?霧野…?」

誰それ?って口からこぼれそうになったが、何故かひどく懐かしい響きに聞こえた。初めて聞いた名前のはずなのに…なんで?

「霧野…ねぇ…」
「知ってるの?」
「いんや、知らない」

全然全く。

「まぁ、そうだよね。狩屋君、転入してきたばっかりだし」
「有名なの?」
「そりゃそうだよ。あんな綺麗な先輩は他にはいないもん」

ふーん、流しながら霧野先輩という人についての話を聞いていた。
とりあえず、霧野先輩という人は「女顔のくせに無駄に男前」「それを指摘されるとキレる」「で、文芸部に入ってて本が好き」…ていう人柄らしい。まぁ、俺の頭にはそのまんまインプットされたけど…。

「狩屋君は何も思わない?」
「何が?」
「霧野先輩だよ。なんか…変な感じしない?もやもやというか…何か変なものがつっかえてるみたいな…」
「うーん…」

懐かしい響きだなとは思ったけど、もやもやか…

「特になぁ…」
「そっか、じゃあ僕だけなんだね…。『今』に違和感を感じるのは…」
「……?」

その時の俺には輝君が何を考えているのかわからなかった。















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