「お兄さん、何してるの?」

とある公園にて、俺はベンチに座ってぼうっとしていたら誰かから話しかけられた。

「ひなた…ぼっこかな?」
「ふぅん…ここ座ってもいい?」

いいぞと許可したら恐らく子供だろう…俺の隣に座った。

「お兄さんは何で両目に包帯をしてるの?」
「直球だな。…見えないんだよ」
「包帯してるから?」
「違う、外しても見えないんだ。お兄さんの目はもう見えないんだ」

そっと包帯に触れるとひんやりとした指先が目元に触れた。子供が触れているのだろう。それにしても冷たい手だ。

「目はまだあるの?」
「あぁ、あるぞ」
「見てもいい?」

許可をすると子供はするりと包帯を外した。今時の子供ならプレゼント袋を破くような勢いで外しそうなのにな…気遣ってくれているのだろう。

「わぁ…お兄さんの目…綺麗だね…。でも、どこ見てるかわかんないや」
「見えないからな」
「そっか…、じゃあ僕の顔も見えないんだね」
「そうだな…誰だか全然わからないな」

盲目に慣れた人は触れただけで相手がどんな顔だとかわかるらしいが俺は盲目になって日が浅い。触れても誰がどんな顔立ちをしていてどんな背格好なのかわからない。

「お兄さんは一人ぼっち?」
「…まぁ、そうなるかもな」

子供の質問責めに不思議と苦ではなかった。普段の俺なら参っているはずなのに淡々と答えてしまうのは、きっと俺自身が寂しいからだろう。黒で遮断されてしまった世界に独りぼっちなのだ。目をこすっても目を開けても闇一色。

大好きなサッカーも出来ない、もう二度と仲間の顔を見ることなんてできない。


「そっか…僕もなんだ」
「…え」

この子供も一人ぼっちなのか。迷子かなんかなのだろう。探さなくていいのだろうか?

「お父さんもお母さんも弟も…みんないなくなっちゃった…」
「…そうか」

迷子ではなかった。しかし、別の意味で迷子だったようだ。俺は手探りで子供の頭に手を置き、優しく撫でた。頭の向き的にこっちを驚いて見ているのだろう。見えない俺はずっと正面を向いていたけれど。子供はこてんと俺の方に倒れて膝枕をする状態になった。



「僕、お兄さんと一緒にいていい?」
「…………」
「お願い…。もう、独りは嫌なんだ…。広いお家で独りぼっちでいるのは…嫌だよ…」

ぎゅっと俺の服の裾を掴み、猫のように膝の上で丸くなってしまった。しかし、どうしたものか。一応、保護者はいるだろうに…。

「俺と一緒にいても不便なだけだぞ?こんな状態だからお前の面倒なんて見れない」
「大丈夫だよ」



むくりと起き上がったと思うと膝立ちで俺の目にへと柔らかいものが押し付けられた。…キス…された…









「僕の片目をお兄さんにあげるから…」










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