打ち上げの次の日
昨日は酔って口喧嘩して疲れ果ててしまった吹雪と雪村を泊めた。雷門からじゃ実家の方が近かったから昨夜実家に転がり込んだら、夕香に怒られてしまった。

『お兄ちゃん?!ちょっ、…え?!』
『すまん、夕香。今日はこっちに泊まる…。こいつら寝てしまってな…はぁ…」
『…久しぶりに帰ってきたと思ったら両手に花状態ね。吹雪さんがいるのに浮気?』
『いや、違っ…』
『吹雪さん可哀想ー。ていうか、泊まるんなら電話くらいしてよ。今からお布団用意しなきゃいけなくなるじゃない!!もー!!』
『…す、すまん』





とまぁ、こんなやり取りが昨夜にあった。吹雪は俺が使ってたベッドに、雪村はその隣に布団を敷いて寝かせた。俺は寝る場所がないからリビングのソファーで寝た。



「あ、…ない」

そして翌日、俺は洗面台の引き出しをいじっていた。昔使ってたワックスがあると思っていたがなかった。

「そういえば、買い置き全部捨てたんだったな…」

聖帝になるとき昔の自分と決別するために全部捨てた記憶がある。髪をおろしていたのは聖帝を演じるためのスイッチと豪炎寺修也という人物を隠すカモフラージュにすぎなかった。親しい友人らはイシドシュウジが豪炎寺修也とすぐにわかったみたいだが…

「今日はこのままか…」

いや、2年間ずっとこの髪型だったから別に問題はないが、全て終わったのだからこんな暑苦しい髪型をどうにかしたい。

「……我慢するか」

数秒考えたが、めんどくさくなったから今日はこのままで行くことにした。







「あ、豪炎寺君…おはよう」
「おはよう、起きてたのか」

部屋に行ってみると、吹雪はすでに起きていてベッドに寝そべりながら雪村の寝顔を見ていたようだ。

「…昨日は、ごめんね?迷惑…かけたみたいだね」
「…覚えてないのか?」
「うん、全然」

…こいつ、酒飲んでなかったよな?ぶっかけられただけだったよな?

「えーと…雪村が起きたら出ていくから。本当にごめん」
「…なんでそんなに謝るんだ」
「ごめん…ごめんなさい…」

いつの間にか俯いてしまった吹雪に俺はなんて声をかけたらいいのだろうか。俺が謝らなければいけないのに何故か吹雪がずっと謝っている。

「…ずっと一緒だったのに大事なところで気付けなくてごめん。豪炎寺君のことならなんでも知ってるって思ってた自分が恥ずかしいや…」
「吹雪…」
「僕は豪炎寺君のこと、全然考えてなかったんだ。豪炎寺君が何を望んでいるのか、何をしようとしているのか…全然…思ってなくて、ただ辛かった感情を君に押し付けて傷つけて…」

違う、違うんだ

「吹雪の態度は当たり前だと思う。俺はお前を傷つけたんだから…」
「………」
「それに、俺は吹雪以上にお前のことを知ってるし吹雪は俺以上に俺のことを知ってると思うぞ」
「っ…そう、だといいな…」

きゅっと小さく俺の服の裾を引っ張りながら、未だに視線を下に落としている。

「…いい加減、帰りたいんだが」
「え?」
「お前の胸の中に」
「………」

そう言った瞬間、吹雪はバッと顔を上げ、涙を沢山溜め込んだ宝石と目があった。

「俺の帰る所はお前の胸の中だ。帰る場所があるから俺は今までどんなに辛いことがあっても頑張ってこれた…」
「…豪炎寺君って僕を…泣かす気?」
「帰って来ちゃいけないのか?ぎゅっと…してくれないのか?」
「…っばか」

吹雪君は勢いよく俺の胸の中に飛び込んできた。そして、俺は力一杯相変わらず小さくて細い吹雪の身体を抱き締めた。




「ただいま」
「おかえりなさい…!!」


















「俺はこのまま散歩して雷門寄った後ワックス買って帰ってくるけど…お前達はどうするんだ?」
「雪村が起きたらホテルに送って君と食事したいな。あ、その前にサッカーしたい」
「わかった、俺が帰って来たら連絡する」
「……?髪、邪魔なの?」

無意識に下ろしている髪を後ろに束ねたり耳にかけたりして試みているが、やっぱり邪魔だ。

「髪、昔みたいに上げたかったんだが…ワックスがなくてな。だから散歩がてらに買いに行こうと…」
「そうなんだ。あ、僕ゴム持ってるよ」

ごそごそとズボンの中からクリーム色のゴムが出した。そして、後ろ向いてと促され俺はされるがままに吹雪に髪を委ねた。

「はい、できたよ。…豪炎寺君、ポニーテール似合ってるね」
「あ、…あぁ…ありがとう」

綺麗に結んでくれたな…なんて思いながら自分の髪に触れる。なんとなく、くすぐったい気持ちになりながらも俺は玄関に向かう。吹雪も後ろからついてくる。



10年前と何も変わってない


仕草とか癖とか…笑顔とか




「あ、シャワー借りていい?昨日入ってないからさ」
「あぁ、いいぞ。じゃあ…」

ひんやりとしたドアノブに手をかける。こんなに清々しい気持ちで外に出るのは何年ぶりだろうか


「また後で…いってらっしゃい」
「あぁ、いってきます」

愛する人に見送られながら俺は酷く輝いた外の世界へと歩き出した










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