『母さん…母さん…!!』
オレンジ色に染まった空の下を俺は駆けた。
涙でぐちゃぐちゃの顔を向かい風で拭くようにひたすら走る。
『お母さんに会いたいかい?』
「んー…」
なんだろう…背中がすごくあったかい…でも、暑い
ぼーとした思考で僕は枕元にあった携帯を開く。3時前…起床時間までまだまだだ。
ごろんと寝返りをうつと、背中にあったぬくもりは腹部へと移動。なんとなく、布団をめくってみる。
「?………???!!!」
僕の意識は完全に覚醒した。布団の中にいたぬくもりの原因が
「ご…えんじくん…?」
僕に縋るように眠っている豪炎寺君だった。
「(なんで僕の部屋に豪炎寺君が…?!寝る前まではいなかったのに…いつ僕の布団に潜り込んだんだろう…?)』
「…っ」
「おぉお…?ぐぇっ…」
急に僕の腰に回していた腕に力が入り、締めた。
「ご、ごうえっ…しまぁっ…!!」
豪炎寺君、力強っ…!!
ぺしぺしと頭を叩くと豪炎寺君はふと目を覚ました。
「あ、起きた?」
「…ぁ、ふぶき…?」
寝ぼけているのだろう。ぼーと上目づかいで僕を凝縮。う、なんか視線を反らしたくなる…。
「またか…」
「え?何が?」
「嫌な…夢…」
「嫌な夢?」
うつらうつらと眠りに落ちようとしている豪炎寺君。嫌な夢とはなんだろう?
「小さい頃に見た…変な夢…夢だったはずだ……現実…だったなんて、…しんじたくない…」
「そっか…」
微かに震えている僕より大きい小さな豪炎寺君をぎゅっと抱きしめて背中をさすってあげた。
「ふぶき…ねむい」
「ん、…寝てもいいよ」
「ねたくない…また、見そうだ…」
「大丈夫、僕がずっと一緒にいてあげるから」
「ん…」
数年前、母さんが死んだ。
死因は悪い病気。小さかった俺には大きすぎる残酷な現実だった。本当にガキだった。だから母さんを救えなかった父さんを攻めた。
『病院の先生は病気をなおすのがお仕事なんだろ?!なんで…なんで母さんはなおしてくれなかったんだよ!!父さん…!!』
父さんは黙ったまま何も言わなかった。俺はそんな父さんに腹を立て、母さんの病室を飛び出した。
母さんが死んだなんて嘘だ
「っ…嘘だぁ……!!」
「河川敷…」
いつの間にか河川敷に着いていた俺は橋の真ん中に差し掛かる所で夕焼けを見ていた。
「帰りたくない…」
父さんに会いたくない。母さんに…会いたい…
「母さんっ…」
『お母さんに会いたいかい?』
バッと振り返ると黒い布で身体全体を覆った人がいた。夕日でオレンジ色になっている空間に黒は現れた。
『会いたいなら…私の手を取るんだ。そして、一緒に会いに行こう』
「お、おれは…」
『どうしたんだい?お母さんに会いたいのだろう?会わせてあげよう、さぁ…』
黒い人の手を取ろうとしたとき、何かが千切れる音が聞こえた。
「そこから…何も思い出せないんだ……俺は、そいつの手を取ったのか…それとも、取らなかったのか…」
「そっか…」
「いつも、夢はそこで途切れる…後はループばかりだ……ん、」
舌っ足らずの口調で豪炎寺君は派途切れ途切れになりながらも話してくれた。僕はお礼の意を込めて彼の瞼にキスを落とした。豪炎寺君は相変わらず、ぼーとしていてとろんとした目で僕を見つめている。
「一緒に寝ようか。二人で抱きしめて寝ればそんな夢見ないよ」
ね?と微笑めば、豪炎寺君はいつもは見せない子供っぽい甘えたような微笑みを返してくれた。