「何すんだよてめぇ!!!」
「落ち着け!!これ以上喧嘩してもいいことないだろ?!」
「はぁ?!あいつらが何したか見てただろ?!あいつら士郎の脳天に鉄パイプでぶっ叩こうとしてたんだぞ?!んなの俺が許さねぇ!!!」



意味がわからない…








今さっきのことだ。吹雪…らしき奴?(いや、絶対に吹雪だが…)が数秒で10人程度の不良をなぎ倒していった。あの吹雪からじゃ考えられないくらい荒々しく狂っているのではないのだろうか?と思ってしまうほど暴れ始めたんだ。
さすがに道路や電信柱を壊し始めたところで俺は我に返り、吹雪の首根っこを引っ付かんで全力でその場から逃げた。






そして、文頭に戻る…









「大体、折角お前の噂が鎮静化してるっていうのに…またそんなことしてどうするんだ!!馬鹿なのか?!」
「うっせーよ!!俺は士郎を守っただけだ!!俺は悪くない!!」

…さっきから違和感を感じざるおえない。こいつの話はまるで第三者視点だ。『吹雪士郎』としての返答ではない。でも、目の前にいるのは紛れもなく『吹雪士郎』本人だ。



「…………」
「なんだよ、急に黙り込んで」



本人から聞いた方が早そうだ






「単刀直入に聞くが、お前は誰だ?」
「あ?」

不愉快そうな顔をされたが、俺は吹雪をじっと見た。そして、折れたのか舌打ちをして俺の方に指を指した。

「は?」
「お前から名乗れ」
「…は?」
「名乗ってやるからお前から名乗れって言ってんだ!!」


な、何様なんだコイツ……じゃなくて!!




「なんで俺の名前知らないんだお前…」
「しらねぇよ。俺は士郎じゃねぇし」


やはりそうか…



「俺は豪炎寺修也。吹雪の友達だ」
「ふーん…」

『吹雪の友達』と言った瞬間、じろじろと顔やら身体やらを観察するように見始める。なんなんだコイツ…

「はぁ…で、お前は誰だ?」
「…俺は吹雪アツヤ」
「……………?」








いやいや、アツヤって誰だよ









「……は?」
「だーかーらー!!!俺は吹雪アツ「それはわかった。そうじゃなくて、なんで士郎の方じゃないんだ?あの場にいたのは確かに士郎だった。いつ入れ代わったんだ?」
「いつって…鉄パイプでぶったたかれそうになったとき」

じゃあ、その士郎の方はどこに行ったんだ!?

キョトンとしたままアツヤは俺を見つめてくる。確かによくよく見ればつり目になっている。瞳の色もブルーグレイから橙色になっていた。髪も逆立っている。

「…士郎に会いたいのか?」
「あぁ、会いたい」

吹雪に兄弟がいたなんて初耳だ。家に招いてもらった時もいなかったから。

「悪いけど、士郎のやつ今寝てるわ。無理矢理起こすのもなんか気が引けるし…明日じゃだめか?」


なんで寝てるってわかるんだ?!
ていうか、起こせるのか?!携帯?携帯でだよな?!いや、でも…どこで寝てるんだ?家か?鍵は持ってないはずだが…じゃなくて!!兄弟置いて寝るって何なんだ?!最低だろ!!

「なぁ!!!」
「何がだよ!!!?」

かなり混乱していた俺にアツヤは盛大にツッコんだ。とりあえず、落ち着け俺!!





「…えーと、お前は吹雪アツヤ」
「あぁ」
「士郎ではない」
「あぁ」
「じゃあ、士郎はどこに行った?」
「俺の中」
「……………」

だめだ修也。落ち着くんだ。落ち着け、ひっひっふーだ。今こいつなんて言った?『俺の中』?食ったのか?士郎を?グロいなオイって違うだろ。

「…『俺の中』とはどういうことだ?」
「お前、もしかして俺の存在知らない系?」
「あぁ、知らない系」

頭がこんがらがってきた。俺はこんなに馬鹿だったか?馬鹿だったんだろう。




「俺は士郎が作り出したもう一つの人格。吹雪アツヤだ」
「…………」
「二重人格ってやつだ。因みに双子の弟だが、本物は数年前に死んでる」
「……そうか」
「雪崩の事故だ。父さんと母さんとアツヤは生き埋めだ。士郎だけ助かった。で、寂しがり屋な士郎は自分の中にもう一つの人格を作り出した。それが」
「お前…か?」

ビンゴと言いながらアツヤはくるくると俺の周りを回る。

「それは北海道での話だ。中一の冬まではまー、それなりに安定してた」
「…………」
「2月だっけか?士郎が壊れた」

壊れた…それは精神崩壊を意味するのだろう。アツヤは続ける。

「前の学校の屋上から飛び降りようとしたんだ…アイツ。目は死んでて笑いながらフェンスの向こうを見てたらしい」
「お前はいなかったのか?」
「士郎の意識がある間殆ど俺は眠ってる。逆も然り。同じ能だから記憶は引き継ぐけどな」
「………」


俺が黙り込んでいるとアツヤはくるりと後ろを向き、夕焼け空を仰いだ。


「士郎の噂があんな風に悪くなっちまったのは…俺のせいなんだ」
「………?」

アツヤは傷ついた子犬のように俺の方を見てはにかむ

「守ってやらなきゃって思ったんだ。ただそれだけなんだ」
「アツヤ…?」
「士郎って中性的な顔立ちだろ?こっちでは色々絡まれる条件が揃ってたみたいでさ…こっちに来たとき、さっきみたいに馬鹿共に絡まれたんだ。実はその時俺さ、偶然起きてて…あんなことがあった後だったからかーっと頭に血ぃ上って」
「士郎と代わって喧嘩をした?」

あぁ、とアツヤは肯定した。そして続ける

「後悔したと言えば半分嘘になる。どこかではこれでいいんだと思ってたんだ…最低だよな。士郎が人と関わらなければ誰かを失う悲しみなんてなくなる。…そんなことしたって意味ねぇのにさ」
「アツヤ…人は関わることで成長する生き物だ。人と関わらなかったら消えて失う物の方が大きい、得る物なんて何もない。…必要以上に人と関わらない俺が言うと説得力はないが、それは士郎のためにはならないと思うぞ」

そう、だよなぁ…

そう呟いたアツヤはどこか悲しそうな顔をして道路に微かにある砂を靴先で弄っていた

















「悪かったな、愚痴って」
「いいや、でも初対面の俺でよかったのか?」

あの後俺達は吹雪が放置してきたスーパーの袋を取りに不良のいた場所へと戻った。勿論、不良達はその場にはすでにいなかった。
大きな3つの袋を持つのは大変だろうと思い、俺は一番大きく膨らんでいる袋を一つ持つことにした。

「別に士郎の友達だったら誰でも良かった。このことを話して事情を知ってもらうことが出来たのなら俺の役目は終わり。自分で消滅するつもりだ」
「…そうか、止めはしないが士郎は悲しむんじゃないか?寂しいからお前を生み出したんだろう?なら…」

アツヤはふるふると首を振って覚悟を決めたような瞳で俺を射抜く。

「士郎はアツヤ(過去)に縋っちまったらダメだ。それに、ちゃんとお前が士郎を守ってくれるんだろ?」
「………あぁ」

んじゃ、よろしくなーとこれから消えるというのに恐怖なんて微塵もないと言わんばかりのアツヤを見て俺は





あいつを守りたいと心の底から思った














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