「吹雪ー、遊びに来たぞー!!」
ピンポーンとインターホンを押す円堂。そして連打。
「やめろ」
「あだっ」
そして、風丸お母さんからの制裁。今日もお疲れ様ですお母さん。
今日は円堂、鬼道、風丸と一緒に吹雪のアパートに遊びにきた。吹雪自身、少し困っているようだったが円堂の押しにより折れた。
そして、今。相変わらず雨は土砂降りだが家で遊ぶのだから問題はないだろう。正直、吹雪の家に行くのが楽しみだった俺…なんか女子っぽいと自覚しているつもりだ。…もう一度言おう、つもりだ。
「…あれ?」
「出ないな」
インターホンを押してからしばらく経っても吹雪はドアを開け、顔を出すことはなかった。
「時間は間違ってないはずだが…」
「まだ寝てんのかなぁ…?」
ぱちんと円堂は携帯を開き、吹雪に電話をかけた。数回のコールの後に吹雪が出たようだった。
『ふぁい…』
「あ、吹雪?まだ寝てたのか?」
『いや、寝てた訳じゃないんだけど…まぁ、色々あってさ』
「そっか。今俺達さ、お前ん家の前にいるんだけど…もしかして家にいないのか?」
円堂が言い終わる前に部屋の中からガタガタと物音が聞こえ、バンっと勢いよくドアが開いた。
「ご、ごめん!!気付かなくて…!!どうぞ上がって!!」
「あ、…お邪魔します…」
というわけで、俺達は吹雪の部屋に上がることに成功した。
「遊びに来てくれたのは嬉しいけど…僕の家、何もないよ?」
「だよなぁ。吹雪ってゲームとか持ってる感じしないし」
「サッカーは今雨降ってるからできないしな」
皆で何をするか悩んでいると部屋の隅から猫の鳴き声が聞こえた。
「…猫?」
「…あ!!あそこ!!あそこに子猫がいる!!すっげぇええ!!」
何がすごいかわからないが、円堂は居間の入り口付近で此方の様子を伺っていた子猫に突進。抱き上げて戻ってきた。
「猫!!」
「だな。吹雪、いつの間に猫なんて飼うようになったんだ?」
「いやぁ…昨日から飼い始めたんだけど…あはは」
「そういえば、昨日猫に逢ったとか言ってたな。アパートが動物禁止だから飼えないんじゃなかったか?」
確か、朝練のボール磨きの時にそんな話をしていた気がする。
「一応、大家さんには許可貰ったんだけど…。僕、動物なんて飼ったことないからどうすればいいのか…」
「なぁなぁ!!コイツなんて名前なんだ?!」
「…………」
「で、どんなのがいいと思う?」
「そうだな、特徴から取ったらとうだ?」
「白い毛、金色の目…金色…金……金太郎!!」
「解せぬ」
いきなり円堂の案は却下。まぁ、当たり前だよな。
今はまだ名前を付けなかった猫の名前をみんなで考えている。名前付けるのを忘れるなんて思ったより吹雪はかなり抜けてる奴だと再認識させられた。今までどうやって呼んでいたんだよ。
「ここは簡単に『しろ』や『タマ』とかでいいんじゃないか?」
「さすが風丸だ。大雑把だな」
「褒めてるのか?」
「まぁな。男らしくていいと思うぞ」
「男らしくてって…男なんだけど」
複雑そうな顔をした風丸は小さな猫の頭を撫でた。気持ちいいのか、猫は喉をごろごろと鳴らして甘えていた。
「『しろ』だと『士郎』と被るだろ?別のにしたらどうだ?」
「じゃあ、『タマ』か?」
「なんで二択しかないんだ」
円堂の案に再び溜め息を吐きながら俺は窓の方へと視線を移した。雨はまだ降り続いている。そういえば、今週はずっと降るって天気予報で見た覚えがある。円堂のストレスが限界を越えなければいいが…
「ていうか、その猫さ…雄なのか?雌なのか?」
「えーとなー……雄だ!!」
「雄か…じゃあ、『白夜』なんてどうだ?」
予想通り円堂と風丸は微妙なリアクションをした。まぁ、人間っぼいしな。
「由来はあるんだろ?豪炎寺」
「まぁな」
「え?どんな由来なの?」
相変わらず鬼道は勘がいいな。吹雪は興味津々のようで尻尾を振るかのように食いついてきた。
「お前とアツヤの名前を混ぜたんだ。お前からは『士郎』の『しろ』、『アツヤ』からは『や』を取った。『しろや』じゃ語呂が悪いから漢字に変換したら丁度『白夜』という漢字が出たからそのまんま使ってみたんだが…」
どうだ?と言う前に吹雪からタックルを受けて盛大に押し倒されてしまった。唖然としてると起き上がった吹雪が俺の視界に現れて嬉しそうに微笑んだ。
「それいいよ!!とっても素敵だ!!素敵だよ!!」
「そ、そうか…」
あまりにも綺麗に笑うもんだから何故かどぎまぎしてしまう。やっぱり俺はコイツが笑ってる時が一番好きだ。俺を押し倒したまんま目をきらきらと輝かせた吹雪の頭を撫でてやると、はたまた照れたように笑う。
「白夜…白夜かぁ…ふふっ、びゃーくやー」
吹雪は風丸に撫でられている猫の元へ移動。にっこにっこ微笑みながら猫に話しかけた。
「今日から君の名前は白夜だ。豪炎寺君が考えてくれたんだよー。えへへへー」
吹雪が白夜と呼ぶと理解しているか、白夜は可愛らしく鳴いた。そして、ごろごろと吹雪に甘える。
俺はそんな微笑ましい光景から視線を外へと移した。外は相変わらず雨が降っていているが、さっきよりは弱まっていた。