「はじめまして」
「…………」
「君なんて大嫌いだ」










僕が白恋中の監督に就任したすぐ後のことだった。聖帝に呼び出された。来たかと僕は自分でも驚くほど緊張なんてなかった。ただ、身体の奥から湧き上がるふつふつとした感覚が消えないだけ。
自分でも大人げないと思う。このままじゃ僕はあの人に八つ当たりをしてしまう。それが怖い、でもそうすることでこの気持ち悪い感覚から解放されるのではないだろうか?と自分の感情に全て任せてみたいと思ったり。



「吹雪先輩って聖帝、イシドシュウジさんのこと知ってますか?」
「ぁー…まぁね」

後輩の質問にあからさますぎる返答。不自然だった気がする。

「あの人ってぶっちゃけ、サッカーを管理してるって感じしませんよね。俺は映像とかTVでしか本人を見たことないんですけど、でもなんか…うーん」
「雪村って変なとこで敏感だよね。いつもは鈍感のくせに」
「喧嘩売ってます?先輩」

おふざけのように『うりゃー』と雪村はゆるりと拳を僕に突き出してくる。そしてそれを笑いながら僕が受け止める。じゃれ合いの喧嘩だ。意外と和むものだ。

「練習も終わったことだし、今からラーメン食べにいこうか」
「吹雪先輩って緊張感全くないですね。イシドさんから呼び出し食らったっていうのに」



別にいいじゃないか。お腹空いたし。









「味噌ラーメン二つー」
「…俺も味噌ラーメンなんですか」
「先輩の前で味噌ラーメン以外のラーメンを食べようとするなんて…いい度胸だね雪村」
「こういうときだけ先輩の権力使うアンタは悪魔か!!」

奢ってもらう立場だから別にいいですけど、としょげる雪村。
しばらくすると『へい、お待ち』と言いながらおじさんが味噌ラーメン二つを僕達の目の前に置いた。神経擦り減るようなことをしに行くんだ。腹ごしらえぐらいしとかないとね。

「…吹雪先輩って変な人ですよねー、さっきから見てて改めて思いました」
「失礼だね君」
「おあいこですよ。まぁ、あんまり関わっちゃいけないことみたいなんで干渉はしませんけどね」
「?」

僕に構わず雪村はパチンと割り箸を割って、白い湯気が出ているラーメンを食べ始めた。
伸びますよ、と言われ僕もラーメンを食べ始めた。














_フィフスセクター北海道支部

雪村と別れた後、僕は言われたとおりフィフスセクターへとやってきた。何故聖帝が東京の本部に居らず北海道にいるのかというと、偶然、ここへの仕事があったらしく、彼は今フィフスセクター北海道支部に滞在しているらしい。なんてタイミングなんだ。彼と会うことを考えると…ああ、止めよう。こういうこと考えると現実になりそうで恐ろしい。

ぐるぐると考えているうちに聖帝いる部屋へと案内された。失礼しますと言いながら部下は僕をその部屋へと通した。

「吹雪士郎を連れてきました」
「ご苦労、お前達は下がれ。二人きりで話しがしたい」
「はい」

そう命令されて出て行く部下。二人きり…やだなぁ…気まずすぎる。まぁ、初対面設定の対応をしよう。


「はじめまして」
「…………」
「君なんて大嫌いだ」
「……そうか」

おっと、口が滑ってしまった。無意識に口が動いていたようで自分でもびっくりだ。

「で、何か用かな?僕、これでも忙しいんだ。悪いけど君なんかに構ってられる時間なんてないんだ。勿体無さすぎる」
「…つい先週、白恋中の監督に就任したそうだな。折角、北海道支部にいるのだからあいさつしようと思ってな」
「ふーん、あっそう。君のことは知ってるからいいよ聖帝さん。お目にかかれて光栄です。僕はただのサッカー選手さ」

冷たいって思ってる?しょうがないよね、君のせいなんだから

「………関心しないな」

小声でそう言ったかと思うと、聖帝は椅子から立ち上がり…消えた

「えっ………っ?!」

かと思ったら、僕の目の前で着地。多分、飛んだのだろう。よくあんな高いところから…
僕が内心呆れていると聖帝はじりじりと僕を追い詰める。とん…と背中に壁が当たった感覚、もう逃げられない。彼と同じ漆黒の瞳は鏡のように僕を映し出している。

「私より白恋の方がいいか…」
「何言ってるのさ君」
「なんでもない、あまりフィフスセクターに首を突っ込むな」
「完全に首突っ込んでる円堂君がいるっていうのに僕は許されないんだ?」

黙ってしまった彼。なんなんだ?忠告するためにわざわざ呼び出したの?部下使えばいいじゃないか。…君の考えがまるでわからないよ聖帝…

「…お前は私の計画の邪魔になるからだ」
「君の事情なんて知らないよ」
「それは私も同じだ」

僕も彼も退く気はない。じっとお互い睨み合っていると聖帝は僕の頬に手を添えた。ぞわぞわしてくすぐったい。彼の手を払おうとすると手首を掴まれて阻止。何をするつもりなんだ彼は。

「ちょっと、何を……っ?!」

いきなり僕の首もとに顔を埋めたかと思うと耳に息を吹きかけてきた。

「なっ…何考えてるんだっ……ひっ?!」



脳内に大音量で響き渡った粘着質な水音




「ちょっ、やめ…!!…は、…んんっ…ぁ…!!」
「…………」
「い、ゃ…ぁあっ…!!やだぁ……んぁあ…!!」

深く舐められる度大きく身体が跳ねる。耳は弱いんだ…恥ずかしい。

「も…や、めっ…!!やめてってば……いっ!!??」
「…………」

信じられない。彼は何を考えているんだ。訳が分からない。

「…っ」
「血…出たな」

なんで微笑むんだ。
彼は僕の耳を舐めまわしていると、いきなり歯を立てて噛んだ。食いちぎるつもりだったのだろうか?彼はまた僕の耳を舐めまわし始めた。傷を抉るように少し歯を立てながら…

「痛いっ…てば!!」
「…っ!」

空いていた腕で気が緩んでいる彼を突き飛ばし、するりと彼と壁の間から抜け出してそのまま走って部屋を出た。













「…口、血だらけですよ?」
「あぁ、虎丸か…」

聖帝、イシドシュウジは口元に付いた血をペロリと舐めた。

「今早急、泣きながら怒って全力で走っている吹雪さんとすれ違ったんですけど……何したかは聞きませんね」
「あぁ、助かる」

いい加減拭いてくださいと言う虎丸にイシドは拒否し、何の用だと問た。

「次の試合なんですけど、雷門と白恋がぶつかりそうですが…どうしますか?」

そうか、とイシドはイスに座り妖艶な笑みを浮かべた。




「吹雪士郎を白恋から…追放する」












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