no title


2014/02/18 04:52
「えっと、君が『ゴウエンジ』くん?」
「なんだ、いきなり呼び出して」

校門に立っていたのは、夏休み夕焼けの中で俺達を見ていた男だった。何をしにきたのだろうと思ったが、俺が目的だったとは…。呼び出され、改めて間近でコイツを見てみると、病的な白い肌に暗い蛍光色の赤髪、発光するんじゃないかってぐらい明るいエメラルドグリーンの瞳…第一印象は『宇宙人』

「キミのこと、知りたくってね」
「………………は?」
「俺は基山ヒロト。親しみを込めてヒロトって呼んでね」
「いや、何故俺なんだ?」
「え?うーん…だってキミ、吹雪くんと仲良いみたいだからさ」

瞬間、吹雪先生の言葉が蘇った。監視役…コイツがか?迷惑を掛けるというのはこのことか。ということは、これを避けるために吹雪先生は俺との接触を避けて…しかし、あんまり意味はなかったみたいだが…

「一番吹雪先生との接触が多い俺から何を聞きたいんだ?」
「あれ?もしかして、吹雪くんから色々聞いちゃってるのかい?」
「別に…あぁ、ただお前が変態ということだけな」
「は?変態?」

ずっと余裕そうな顔をしていたが、初めて不服そうに顔を崩した。しかし、それは一瞬の出来事で、すぐにニッコリと嘘臭い笑顔に戻ってしまった。雰囲気がなんとなく吹雪先生と似てるからもしかして…

「先生の弟?」
「え、」
「お前、もしかしたら先生の弟なのか?顔は全然似てないけど」
「あはは、違う違う。俺は「豪炎寺くん!!!!」

ヒロトの言葉を遮って俺の名を呼ぶ声。振り向くと凄い速さで此方へ走ってくる吹雪先生がいた。ヒロトは相変わらず余裕の笑み。先生を見た瞬間、どことなく楽しそうな顔つきになった気がする。

「何してるの?!もうチャイム鳴ったよ?!」
「せ、せんせ…「やぁ、吹雪くん」
「…………基山くん」
「吹雪くんは俺のこと『ヒロト』って呼んでくれないんだね」
「………。」

ゴミを見るような目でヒロトを睨みつける吹雪先生。ヒロトも楽しそうに笑ってはいるが、二人の纏う空気はピリピリしている。俺は完全に場違いなのでは?そう思うが足が動かない。情報欲がどうしても勝ってしまっているようだ。先生とヒロトは、どういう関係なんだ?

「ほんっと、いつ見ても気持ち悪いね、キミ。夢に出そうだよ」
「それはどうも。で、その夢に出てくる『兄さん』は元気にしてるのかい?」
「…………口が回る上に性格悪いね」
「人の顔見るなり睨みつけては『気持ち悪い』って連呼するキミよりはマシだと思うんだけどなぁ?」
「……で?何か用なのかい?もう授業始まってるんだけど君は一体何をしているの?」

先生が言い負かされた…。完全に外野となった俺は二人の会話をただただ聴くだけ。あ、授業始まっているのか。えーと、5限目は…国語…だから先生が呼びに成る程。今はきっと自習時間なんだな。俺のせいで奇跡が途絶えてしまったか…。
ぼー、とそんなどうでもいいことを考えているとヒロトと目が合った。合った瞬間、にこりと笑いかけられた。どこの誑しだ。

「『ゴウエンジ』くんって人が気になったのと、父さんから吹雪くんに伝言」
「伝言…?」
「『今年で切り上げなさい』だって」
「なっ…?!」
「?」
「良かったね吹雪くん。予定より早く出世できるよ!」

俺はその言葉の意味が分からなくて、どういうことか先生に聞こうとしたが、先生は俯いたまま肩を震わせていた。握り拳を見ると握り締めすぎて血が滴っている。とりあえず、握り拳を解こうと先生に呼び掛けようとしたが、俺はいつも大らかで優しい吹雪先生の意外な一面を見ることとなった。




「ふざけるなっっっ!!!!!!!僕は、継ぐなんて一言も言ってない!!!!君もあの人も僕の本当の家族でもなんでもないじゃないか!!!!なのに………なんで自由に生きさせてくれないんだ!!!なんで決められてるんだ!!!!!他人の癖に、自分達の都合の良いことばかり干渉しないでくれ!!!意味が分からない君もあの人も!!!!!」
「せんせ…」
「……吹雪くん、俺はこれを言いに来ただけだから帰るけど…でもね、この世の全てはお金で成り立つ権力だよ。天才なんて相応しいだけで、それに太刀打ちできない。だってそうだろ?キミは天才なのに権力に手も足も出ない。よく、考えてみることだね、何が最善かをね」


そう言うとヒロトは消えるように帰ってしまった。残されたのは俺と何も言わなくなった吹雪先生。そして、抗うように雌を媚び続ける蝉の鳴き声だけだった。






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