no title


2014/02/14 20:36
9月25日


おかしい。吹雪先生がおかしい。
あの祭の後、先生は何事もなかったように笑っていた。そして、そのまま夕香をおぶった俺をマンションまで送ってくれた。その時もずっと笑顔だった。
それからは、図書館には姿を見せず夏休みも終わり新学期に入ったのだが、5限目の国語の時間…吹雪先生がサボらなかったのだ。奇跡だと思った。その時は。誰かがふざけて『今日は自習じゃないんですねー』なんて言ったが、先生は『昨日沢山寝ちゃってね…』と苦笑い。そして、普通に授業をしていた。俺は不覚にも涙を流しそうになった。俺はこれを望んでいたんだ!と思った。しかし、何かが空いたままだった。ぽっかりと、何かが。
そんな奇跡が3連続。3週連続吹雪先生はサボらなかったのだ。他のクラスも授業をやっているのだろうと思ったが、他クラスの染岡や半田達に聞いてみると他クラスの5限はいつも通りサボっているらしい。つまり、サボっていないのは自分のクラスだけ…。風丸から聞いた話では他クラスの担任から苦情が来ていたらしい。確かに、自分のクラスだけ真面目に授業をしているのは流石に不公平だろう。その時、吹雪先生は、へらりと笑ってその場を済ませていたそうだ。

そして、ここからが問題だ。新学期が始まってから俺は一度も吹雪先生とまともに会話をしていない。今週は一度も口を聞いていないのだ。前は、嫌と言うほど話しかけてきていたのに。急に壁を作られて少し変な気持ちになっている。俺が何かしたのだろうか?と不安になったりしたが、心当たりがない。あぁ、別に避けられているわけじゃないんだから普通に話し掛ければ…そう結論付けたが、口下手な俺が先生に話し掛ける?話題なんてない。けれど、よくよく考えてみれば、俺も普通に吹雪先生に話しかけていた。でも、それは吹雪先生が問題を起こすからであって普通に話し掛けるのとは全然違……



「なぁ、風丸…どうやったら人に話しかけられるんだ?」
「……たった今、俺に話しかけてるじゃないか」

通りすがりの風丸は呆れた顔をして手に持っていたペットボトルを飲んだ。あぁ、自販機帰りだったのか。
今は昼休みで、鬼ごっこをして遊ぶ奴らが騒がしく廊下を行き交い、外では弁当を食べている人や委員会活動をしている生徒などが所々に見える。俺は廊下の窓の縁に頬杖を付いてその光景を眺めていた。

「そうじゃない。きっかけや話題がない場合はどうすればいい?」
「はぁ?それは自分から作るものだろ?」
「…自分から作るもの?」
「まぁ、豪炎寺は語り手より、聞き手だもんな。んー…豪炎寺は誰と話したいんだ?…あ!女だったら俺はパスだからな」
「あ、いや、女じゃない。吹雪先生とだ」
「え?吹雪先生?」

驚いたように俺を見る風丸。何かおかしいことでも言っただろうか?怪訝そうに見ると風丸は困ったように手を振った。

「いや、先生と豪炎寺って仲が良いから意外だなーって」
「別にそんなに仲良くない」
「そうか?毎回毎回サボった吹雪先生を性懲りもなく呼びに行くのに?」
「普通だろ、それは」
「学級委員でもないのに?」
「あいつらが仕事をしないからだろ」
「だからお前がやる理由もないだろ?『普段の』お前の考え方なら呼びに行く時間自体が勿体ないとか言いそうだけどな」

…確かにそうだ。じゃあ、どうして俺は性懲りもなく吹雪先生を呼びに行っていたのだろうか?中庭の木の上ですやすやと気持ちよさそうに昼寝をしている吹雪先生を。内申で脅されても諦めずに毎回呼びに行って。やっと授業をしてくれたと思ったら俺の中のどこかに穴が空いてしまった。きっと俺は、その馬鹿みたいなやり取りでしか先生と繋がってなかったと思い知らされたようで嫌だったんだ。

「仲が、良かったのか…?」
「馬鹿だなぁ、そもそも仲が良くなかったら話したいとは思わないだろ?」
「そう、だな」
「だろ?…ん?なんか、外が騒がしいな」

風丸が窓の外へ視線を向ける。俺もつられて視線をやると外にいる生徒全員が校門の方を向いていた。校門には明らかに雷門の制服ではないブレザーの制服を着用した、見覚えのある髪色をした奴が立っていた。



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