no title


2014/02/14 20:33
「寝ちゃったね」
「そうですね」

疲れて眠ってしまった夕香をおぶりながら、俺は先生と共に鉄塔広場へと向かっていた。あの後、先生は一緒に来ていた女子達と合流したものの、夕香がひどく先生に懐いてしまい、俺たちと行動するようになってしまった。そして、俺たちははしゃぐ夕香の後ろを歩きながら屋台を回った。
そろそろ、花火が始まるから…と先生は人混みを避け少し離れたここまで来たらしい。確かに、夕香をおぶりながらだと人混みはキツい。木の側のベンチに腰を下ろし、夕香を負んぶから抱き抱える状態へ。吹雪先生は、さっき買った焼き鳥を食べ始めた。

「ん、…ここなら少しぐらいは見えるかな?」
「先生は花火好きなんですか?」
「見る分にはね」
「見る…?じゃあ、音が?」
「うん、嫌い。大きい音は苦手でね」

困ったように微笑む先生。天才にも苦手な物があるのか。あぁ、当たり前か。少し意外だと思いつつ、すやすやと眠る夕香の背中を撫でる。

「少し、いいかい?」
「?、はい」

先生はベンチから立ち上がり、向かいにある柵に軽く腰を掛ける。伏せていた顔を上げて、にっこりと笑いながら口を開いた。
「君は、多分みんなの中でも一番僕に関わりのある生徒だよね?」
「え?まぁ…そう、なるんですかね…?」
「僕はそう思うよ。それでね、多分…目を、付けられてると思うんだ…」
「??」

先生の言いたいことが理解できず、首を傾げていると先生は困ったような申し訳なさそうな顔で再び口開いた。

「僕の家庭は訳ありでね…別居してるんだけど、本家の方から監視役みたいな人が送られてきてるんだけどね、それで…えーと、僕ってこんな性格だから僕の人間関係とかそういうの調べたり見張ったりしてて…うん、えっと…」
「?」
「ごめんなさい」
「なんで謝るんですか」
「君に、迷惑掛けることになるかもだから…だから、ごめんなさい」
「っ?!」

いきなりぺこりと直角90°、腰を曲げて謝る吹雪先生。あの吹雪先生がだ。不真面目で昼寝大好き天才問題教師の吹雪士郎先生が…俺に謝罪している。何も言えず、呆然とそれを見つめていると、先生はゆっくり顔を上げた。

「もう、遅いかもだけど、豪炎寺くんには迷惑掛けないようにするから。だから、…___」



刹那、重い花火の音によって先生の言葉は掻き消された。俺は、背景となっている綺麗な花火よりも悲しそうな顔をした吹雪先生の方に目を奪われていた。






戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -