no title


2013/02/25 11:48
8月21日


まだ蝉は媚びている







今年の夏休みも大詰めを迎え、これといって当たり障りのない日常を過ごしていた。朝練行って、図書館で勉強して帰宅してからも勉強をする。偶に円堂達と一緒に寄り道したりするが、大抵はこのスケジュール。
今日も俺は図書館で勉学に励んでいた。室内の端っこで本棚の陰に隠れた誰も座らない縦長の机。そこが俺の特等席だ。本当に誰も座らないものだから、俺はそこを有り難く使っている。本気で集中して取り組みたい時は一人になりたいのだ。つまり…


「先生、席外していただけませんか?」
「えー?」


先生が邪魔なのだ(失礼









「先生、なんでここに?」
「僕がここにいちゃおかしいかい?」
「いや、そういう訳じゃ…」

先生は俺の向かい側に座って分厚い本を読んでいる。まぁ、先生の雨の日の昼寝場所は大体図書室だからおかしくはない。その前に先生は国語の教師だ。図書館に来ることぐらいあるだろう。

「豪炎寺君は勉強してるんだー…うわっ、懐かしい」
「………」
「いつやったっけー?んんー…5歳くらいに勉強したかも。…あ、そこ違うよ」
「え?!」

いきなりの指摘に素で反応してしまった。吹雪先生は気にせずに誤答に指を指してくれた。

「計算式が間違ってるのかも、参考書見てご覧?」
「は、はい…。…『かも』?」
「あぁ、うん。僕、暗算したから計算式とかわかんない…」
「いや、頭の中で計算式作って解いたんじゃないんですか?」

えー?と自分のことなのに考え込む先生。なんか唸ってると思ったら、閃いたかのように勢い良く顔を上げた。

「豪炎寺君、12×2は?」
「え?24ですけど…」
「それと同じだよ」
「?」
「君は今、頭の中で計算式を用いたかい?無意識に近い感覚で回答したんじゃないのかな?それと同じなんだよ。僕のその問題の暗算は」


これ、ムダに式の長い文章題なんですけど…









「豪炎寺君はさー、お盆休みは帰省したのかい?」
「あ、はい。田舎の祖父母の家に…」
「へぇ、そっか…」



………。


………………………え、それだけ?


吹雪先生にしては短い会話だった。先生も帰省したのだろうか?でも、先生は親戚の人達をよく思っていないようだから、詮索するのは気が引けるな。先生はさっきのことはまるでなかったかのように本を読み進めている。俺も真っ白なノートにシャーペンを滑らせようとした時、

「変質者には気を付けなよ」
「は?」
「特に、赤毛でエメラルドグリーンの目をした他校の生徒には」
「……知り合いですか?」


声は聞かなかったけれど、印象深い人だったから何となく覚えている。あの円堂に意味深な感想を吐かせた唯一の人間でもある。円堂の言う『空っぽ』は俺にはよくわからないけれど、アイツは人のそういうことに敏感だから何かを感じ取ったのだろう。


「知り合いというか…押し倒された…り?」
「、は?!」
「そう!!あの子は気に入った人を押し倒しては乳首やお尻を撫で回して『げへへっ、最高でやんすぅ〜ぺろぺろ』って言いながら僕達の大切な物を奪っていくんだよ!!」
「………へぇ」

なんというギャップ


「まぁ、あれだよ。あまり関わらない方が身のためというか…関わってほしくないっていうのが本音なんだけど、僕のせいで迷惑掛けることになるというか…えっとね、なんというか…またあの子が目の前に現れたら無視していいよ」
「はぁ…」

曖昧に返事した俺の頭を優しく撫でる。にこりと微笑む先生はどこか寂しそうで…。宿題を提出した時に先生を取り巻く家庭環境は複雑だということがなんとくなくわかった。血の繋がりのない家族。この人はそれをどう思っているのだろうか?










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