no title


2013/02/03 21:32
「ぅあああああ…」
「おーい、ふぶきー大丈夫かぁ?」
「完全に死んでるな」
「まぁ、あれだけ走らされればな」

昨日イナズマジャパンに合流した僕だけど、二日目にしてダウンしていた。何故なら僕だけ特別メニュー、走り込みで1日終わってしまったからだ。いや、監督の考えることも解らなくもないけど、さすがにこれはないだろう。そりゃ、僕は暑さに弱いし体力も他の皆より少ないと思う。それを無くすために、ライオコット島の気候に慣れるようにって考えてくれてることはありがたいけれど、

「明日からは練習に参加できるけど一週間は練習終わった後、走り込みなんだろ?吹雪も災難だな」
「死ぬ…暑い…」

綱海君は頭を撫でてくるけど、今の僕には拒否する余裕なんてなかった。されるがままに頭を揺さぶられていると、ポジション別のリーダー会議から帰ってきた風丸君が止めろと綱海君を止めてくれた。

「じゃあ、今から会議の内容を伝えるけど、まず…吹雪はDFとして復帰なんだな?」
「うん、そうだよ。栗松君の代わりさ」
「へぇー、FWじゃないんだな」

意外そうな顔をする綱海君と飛鷹君。あーそっか、飛鷹は知らなくて当然だけど綱海君はエイリア事件のとき終盤で参加したから知らないんだ。

「僕は元々DFなんだよ。エイリア事件のことがあってから成り行きでそのままFWをやってたけど」
「へぇ、そうなんだな」
「だからFWなのにディフェンス技を覚えてたんだなー」

二人が納得した所で風丸君が会議での内容を伝え始めた。でも、僕は復帰する前に監督から言われた言葉が胸に引っかかっていた。アジア予選の時と一緒だ。監督が言いたいことがよく分からないんだ。

『吹雪、足の方は完治したそうだな』
『はい、お陰様で…』
『……栗松が足を痛めている…近々治療のために帰国させるつもりだ』
『……復帰しても、いいってことですか?緑川君じゃなく僕が、ですか?』
『そうだ、お前だ』
『緑川君、頑張ってるんですよ?復帰できるようにって…』
『人に情けを掛けるつもりかお前は。私はただお前がDFだからという理由でお前を選んだだけだ。勘違いをするな』
『そう、ですか…』
『念の為に言うが、お前はDFとして復帰だ。アジア予選の時と同様、FWではないからな』

豪炎寺君と一緒に、ゴール目指せないのか…
ダメだダメだ!!贅沢言っちゃダメだ!!また代表として呼ばれただけでも感謝しなきゃいけないのに、そんなこと思っちゃダメだ!!

『…き、…吹雪!!』
『は、はいっ!!』
『お前は、《自由》だ』
『へ?』
『じゃあ、待ってるぞ(ブツッ』
『……………。』




《自由》ってどういうことだろう?








「おい」
「やだ、動きたくない」
「ここは俺の部屋なんだが」
「豪炎寺君の部屋が階段のすぐ側にあるのが悪い」
「お前の部屋はその隣だろ?ほら、帰れ」
「やだー!!僕は疲れてるんだー!!もう一歩も動けないー!!」
「……はぁ」

豪炎寺君は折れてくれたのか、僕を放置して机に向かって勉強を始めてしまった。僕はそのままベッドに寝っ転がったまま。うん、僕も自分の課題を終わらせなきゃ。《自由》ってなんだろ?

「豪炎寺君、」
「ん?」
「《自由》って何だと思う?」
「は?自由?」

まぁ、そうなるよね。

「お前は《自由》だって言われた。監督から」
「監督から?なら、鬼道に聞いた方が早いんじゃないか?」
「うーん、そうだよね。でも、」 
「でも?」
「僕、今本当動けないからさ」
「………」


その日夢を見た。地平線まで続いてる雪原で僕が走り回る夢だ。進んでも進んでも真っ白な雪が終わることはない。雪に足を取られながらも僕は走り続けていた。別に目的とか、そんなのがあったわけじゃない。寂しいから皆を探していた訳でもない。ただ本当に走り続けていただけだ。

「犬か」
「…へ?」

朝一番、先に起きていた豪炎寺君にその夢の話をした。そしたら第一声が↑だ。

「い、犬ってどういう意味だよ!!」
「犬がよく見る夢はどこかを走り回る夢らしい」
「べ、別に…よく見る夢じゃ…」
「そして、犬はその夢を見てるとき手足を動かすそうだ」
「え、」
「よく動くと思ったら、そういうことか」

ど、どういうことだよ!!解ってしまったけど、解らないふりをした。恥ずかしいから。とりあえず、豪炎寺君の勝ち誇ったような表情をした顔面に枕を投げつけて部屋を出た。




***

「吹雪、上がれ!!」
「え、?」
「早くしろ!!」
「で、でも…」

僕、DFなのに…
綱海君に行ってこいと背中を押されて僕は一人だけ前にでた。いいのかな…MFより前に出ても監督は何も言わない。遂にFWと合流してしまったけれど、監督は相変わらずだ。しょうがないから今同じチームの虎丸君とヒロト君と一緒にゴールを目指すことにした。

「あっ…!!」
「虎丸君っ…大丈夫かい?!」
「あ、はい!!くそっ…」
「吹雪、何をやってる!!下がれ」
「ぇ、あっ、はい!!」

ボールを奪った佐久間君を追い越して自分のポジションへと戻る。

「スノーエンジェル!!」

必殺技でボールを奪取して鬼道君へと繋いだ。なんか、いそがしいなぁ。そのまま鬼道君はヒロト君にパスを出す。虎丸君と共に攻め上がっていくけど、飛鷹君と壁山君が立ちふさがった。中々抜くことが出来ないようだ。

「吹雪!何をしてる!!上がれ!!」
「えっ!は、はい!!」

再び監督から上がれと言われて僕は急いで敵陣内へ攻め込んでいく。虎丸君からのバックパスでボールを受け取ってウルフレジェンドでシュートを決めた。

「…、吹雪!」
「は、はい!!」
「明日から走り込み追加だ。ジャパンエリア10周してこい」
「ぇ、えええええぇぇ!!?」


なんで?!












「教えてきどえもーん」
「…なんだ、そのあだ名は…」

晩、今日は鬼道君の部屋にお邪魔している。いや、寝るときは豪炎寺君の部屋に行くけどね。とりあえず、豪炎寺君から鬼道君に聞けば分かるんじゃないかと言われて、その通り鬼道君に聞きに来たんだけど…

「ねぇ、なんで僕だけ不自然な練習内容なのかな?あと、日本にいるとき監督から『お前は自由だ』って言われたんだけど、どういう意味かな?」
「自由?」
「うん、自由」

鬼道君は右手を口元に当てながら考えてくれた。本当は僕が考えなきゃいけないんだけど、わからないんだ。自由…自由…僕は自由になった…今までは自由じゃなかったの?なんで?エイリア学園の時ならわかるけど、どうして今なの?

「吹雪、何故お前が韓国戦のとき狙われたかわかるか?」
「え?韓国戦の…必殺タクティクスの?」
「パーフェクトゾーンプレス」
「あぁ、そんな名前だったね。何故って土方君との必殺技、サンダービーストを阻止するためでしょ?」
「本当にそれだけか?」
「え?」

ゴーグル越しに僕を射抜く、彼の漆黒の瞳とは違う真紅の瞳。

「サンダービーストを阻止するなら土方だって狙われたはずだ」
「だって、土方君はDFだからっ…」
「お前がパーフェクトゾーンプレスを食らった時、DFである綱海と一緒に閉じ込められただろう?」
「じゃ、じゃあ…僕がFWだったから…」
「65点だな」

び、微妙な点数だなぁ…

「FWならエースストライカーである豪炎寺を狙えばいいはずだが?」
「うっ…」
「ヒロトや緑川もシュート技を持っているよな?」
「んんんんんんっ???」

駄目だわからない。頭がこんがらがってきた。なんで僕だったんだろう?鬼道君の言うとおり、あの時豪炎寺君を狙っていればイナズマジャパンの戦力は完全に下がったはずだ。でも、僕を狙った。なんで?サンダービースト使うから。FWだったから。????

「…お前はあいつらとは違う技を持っているだろう?」
「豪炎寺君達と違う技?…スノーエンジェル?」
「そう、それだ」
「ふぇっ?!」

鬼道君の声が大きくなってちょっと吃驚した。

「お前が豪炎寺達と違うところ…それはお前がDF技を使えるということだ」
「まぁ、僕は元々DFだったし…」
「FWなのにDF技を使える…つまりお前は攻守両方長けているんだ」
「長けているかと言われればあんまり肯定できないけど、攻守どっちもできるのは肯定するよ」
「攻守両方長けているのは下手したらエースストライカーより危険だからな。だから、お前は豪炎寺より危険な存在と見なされて潰されたんだ。で、話を戻すが、今のお前はDF。つまり、あの時は逆でDF技を使えるFWではなく、シュート技を持ってるDFだ」

つ、綱海君もだよ!!あいつはDF技を持ってないし、お前の方が連携必殺技のシュートを沢山使えるだろう?うっ…

「そして、DFなのにも関わらずお前だけをFWと一緒に上げる…心当たりがないか?エイリア学園の時の戦いで」
「へ?エイリア学園?…うーん……あ!」

リベロキャプテン!!

「そう、つまりお前はリベロだ。円堂と違うのはお前はちゃんとDFの仕事をしなければならないということだ。そして、隙を見てオーバーラップをして攻撃に参加する。監督がお前にランニングの特訓を与えたのは体力を付けさせるため。オーバーラップには自陣を往復する運動量が求められるからな」
「あれは…うん、結構キツいんだよなぁ…」

韓国戦、南雲と涼野君が流れるような動作でDF達を抜き去っていく横で僕は必死に二人を止めるために全速力で走ったのを覚えている。流石にあれは疲れた。

「DFがオーバーラップするためにはプレイヤー自身の高度な技術と、もしもの時に素早くポジションに戻れるスピード。そしてプレイヤー同士の相互理解。後はさっき言った運動量だ。吹雪の場合、技術面は文句無しでスピードもこのチームの1、2位を争う位の力だ。プレイヤー同士の相互理解も連携必殺技の多いお前はほかの誰よりも器用にやっていけている。で、問題が」
「運動量…ですね…」

きどえもん、分かりやすい説明をありがとうございました。うん、わかってるよ。僕の体力は皆より少ないよ。炎天下とか不利すぎる。つまり、このライオコット島の炎暑じゃ僕はオーバーラップどころか普通に試合しても倒れてしまうかもしれないのだ。

「ジャパンエリア10周、頑張れ」
「うっうっうっ、はい…」








辞書で調べたらリベロは《自由》という意味だった。僕が自由になるためにはそれだけの体力が必要だった。自由に走り回るだけの体力が…。……明日から走り込み頑張ります。





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