no title


2013/01/16 07:45
『士郎君は『完璧』にはなれないよ」

うん、しってる

『士郎君だけじゃない。人間は『完璧』になんてなれない』

もうやめたよ、『かんぺき』になるのは

『君は一人じゃない』

うん、でも…独りになっちゃったよ?









「ん、ぁー…」

携帯のバイブで目が覚めた。カーテンに日の光を遮られ、薄暗くなった部屋で視界に入ったのは汚くなってしまった机。それに書類の山。付けっぱなしのパソコン。昨日脱ぎ捨てた衣類。
やけに長いバイブでアラームじゃないことがわかった。多分、電話。もう一眠りしたいとこだけど、学校からだったら困るから重い瞼を一生懸命持ち上げてディスプレイを見た。

「………なんだ」

僕は未だに震えている携帯をソファに目掛けて投げた。ソファが普通のよりも柔らかいから投げたって壊れたりしないだろう。
見なかったことにしよう、そう思った僕は再び深い眠りに落ちた。







***


「豪炎寺ー!!明日サッカーやろうぜ!!」
「今日もやっただろ?部活で」
「えー、やんないのか?」
「やるよ」8月に入ってから円堂の機嫌がいい。いや、機嫌が悪い時なんて稀にしかないが、なんというか…今の円堂はいつもよりテンションが高い。理由は分かり切っているが…

「夏休みの宿題が終わると清々しいな!!」
「7月に泣きながらやってたもんな。よかったな、終わって」
「いやぁ、やってる最中は『先生の馬鹿!!』『終わるわけねー!!』とか悪態吐いてたけど、今となっては先生にマジで感謝!!」
「●ッツ美味かったよな」
「俺、ブラウニーのやつ貰った!!」
「俺はグリーンティー」

と、ガリ●リ君

「雷雷軒でも寄るか?」
「おぅ!!…ん、?」
「どうし……、」

校門を出てすぐに右に曲がると、見てはいけないものを見てしまったような気がして俺たちは息を詰まらせた。何故なら




「うぇええええ……… 」


吹雪先生が見た端に四つん這いになって嘔吐(のふり?)をしていたからだ。

「先生、何してるんですか」
「な、なにか悪い物でも食べたんですか?!」

円堂が駆け寄るって背中をさすっている。そんなことしなくても大丈夫なのにな、先生のことだから。

「ぐっ、…円堂…君?」
「せ、先生!!しっかりしてください!!」
「うっ…!!げほっげほっ…、え、んどう…くん…ぼくは、どうやら…もう、ダメ…みたいだ」
「なんだって?!、くそっ、先生!!今、救急車を…!!」
「いいんだ、もう、僕は…たすからない」
「そんな…!!」
「さいごに、一つだけ…きいて、もらっても…いいかい…?」
「何…ですか?」
「これは…とても危険なものだ。だから…みんなに…つたえて…ほし、いんだ…。よろしく…たの、む…よ…」
「先生ーーーーーーー!!!!」








「このガ●ガリ君、クソマズイんだってさー」
「今までの茶番はなんだったんだ」







***


「いやぁ、ごめんねー。本当、口の中が爆発しそうでさー」
「なんでこんな物買ったんですか…。明らかにマズそうでしょ…」

水筒を差し出すとありがとう、と言いながら受け取ってくれた。さっきの茶番は信じなくていい。吹雪先生は好奇心で買ったアイスを食べて死んでただけだから、心配しなくていい。じゃあ、さっきの茶番はなんだったのか?逆に俺が聞きたい。
「コーンポタージュ味かぁ……美味しそうとは思わないけどなぁ」
「コーン入りって…ガリ●リ君はどこへ向かっているんだ?」

溶けて棒から落ちてしまった黄色いシャーベットを眺める。…食欲は沸かないな。落ちてる落ちてない関係なく。

「なし味…最初に食べるんじゃなかった…。もう絶対買わない」
「ていうか、先生は何でこんな時間に学校に来たんですか?もう6時ですけど」

空が薄橙色に染まり始めている。何故、わざわざこんな時間帯に来たのだろう?

「んー、職員室の机の上にUSB忘れてきちゃってさ。取りに来たんだ」
「…へー」

ダメだ。コイツ、USBが何かわかってない

「じゃあ、僕は行くよ。お水ありがとうね」
「さよーならー」
「お気をつけて」

先生が校門をくぐり、姿が見えなくなったところで円堂と共に雷雷軒へ向かおうとした。しかし、






「なぁ、あいつ誰だ?」

離れた所から俺達を見つめる少年。赤毛だが普通とはかけ離れた不思議な髪の色、発光でもするんじゃないかと思うくらい明るいエメラルドグリーン。ブレザーの制服を着用し、どことなくミステリアスな空気を醸し出していた。しばらくするとそいつは軽く微笑み、背を向けて夕焼けの中に消えてしまった。

「何だったんだろうな…」
「あいつ…」

円堂は少年が消えてしまった方を見つめて離さない。

「なんか…空っぽだったな」
「空っぽ?」
「中身…全然ない」
「?」

中身がない?どういうことなんだ?
円堂が呟いたことをしばらく真面目に考えているとばしんっと思い切り背中を叩かれた。勿論、円堂に。

「まぁいいや。早く雷雷軒行こうぜ」
「お前なぁ…」

地味に痛い背中をさすりながら、俺達は少し暗くなった夕焼けの中を歩き始めた。












戻る
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -