no title


2013/02/15 23:57
カタール戦前のこと、今日はマネージャー達がいないから昼食はそれぞれが持ってきた弁当を食べていた。雷門組はそれぞれが親から作って貰い、県外組は綱海が率先して今朝、合宿所のキッチンでそれぞれの弁当を作ったらしい。
俺はフクさんから作って貰った焼き肉弁当を美味しくいただいている。メインである焼き肉は甘過ぎず、辛すぎず、とても丁度良い味付けだ。

そこでふと、気が付いた。




「なぁ、吹雪は?」
「え、吹雪?」

吹雪がいないのだ。あの小さくて白い生き物が食堂全体を見渡してもどこにもいない。折角、あいつが作った弁当を見てみようと思ったのに。

「そういや吹雪の奴…朝、弁当作ってなかったな」
「?、そうなのか?」
「寝坊でもしてたなら起こしてやればいいのに」

苦笑しながら風丸が言うと、隣の机に座っていたヒロトが加わってきた。

「いや、一応起こしに行ったんだけどね…いなかったんだよ。吹雪君」
「は?」
「朝食の時間になったら帰ってきたけどね」

ぱくりと玉子焼きを口に入れ、もぐもぐと食べるヒロトの次の言葉を待つ。

「ん…でね、一応お弁当のこと伝えたらね、吹雪君忘れてたみたいでさ、顔真っ青にしてたね」
「その後は?」
「その後?…うーん?練習終わった瞬間に走ってどこか行っちゃったなぁ。ポケットから小銭の音がしてたからコンビニでも行ったんじゃないかな?」

ヒロトは再び玉子焼きを口に入れた。吹雪はコンビニに行ったのか…いや、でもそれにしては遅くないか?練習が終わってから30分近くは経っている。走って行ったなら、とうの昔に帰ってきてるはずだが…
なんらかの事故や事件に巻き込まれたのではないだろうか?そんな嫌な想像をしていると俺の携帯が鳴り響いた。

「?、豪炎寺の携帯か?」
「…今時、初期設定のままとか…」
「ほっとけ、…非通知?」

ということは公衆電話から掛けてるのか。…何となく、電話の相手は予想できる。留守電になる前に俺は通話ボタンを押した。

「もしもし、」
『もしもし?!豪炎寺君?!』
「どうした?迷子か?」
『えっ?!よくわかったねー!!』

すごーい!と電話越しに聞こえてくる吹雪に落胆するしかなかった。コイツ…アホだ


「今どこだ?」
『うーん、なんかね…アニメの大きなポスター?看板?なのがいっぱいあるよ。あと、メイドさんがティッシュ配ってる』

アニメ?メイド?

「まさか、……秋葉原?!」
「「「えぇええええええ?!」」」

東京組の奴らは完全に驚いていた。俺もだが。

「え?秋葉原っておたくって人達の聖地?って呼ばれているあの?」
「ふーん、そんなに離れたとこにあるのか?」

立向居と綱海は完全に他人事のようなリアクションだった。木暮と土方もピンとこないようでお弁当をもぐもぐと食べている。

「秋葉原って…電車に乗らないと着かないところだぞ?どんだけ走ってたんだっ…」
『だって、コンビニなかったんだよ。だからずっと走り続けてたらいつの間にかここにいて…』

方向音痴だったのか…

くらりと目眩がしたが、それを耐えて吹雪に近くに何かないか聞いた。分かりやすい店でもなんでもいい。何かないか?

『んー…あっ、近くにドーナツ屋さんがあるよ!!すごいねぇ…えーとね、みす、…みすたー…』
「ミスドだな。わかった。俺が迎えに行くからそこで適当に頼んで昼食として食ってろ。動くんじゃないぞ?」
『わかったー』

ぶつりと通話が切れた後、俺は急いで財布と携帯を持って合宿所を出た。少し勿体無い気がするが、タクシーに乗って秋葉原へと向かう。車内でふと疑問が浮かんだ。

なんで吹雪は俺の携帯番号を知っていたんだ?

非通知ということは公衆電話から掛けたことになる。つまり、俺の番号を覚えていたということだ。それって…

「っ……」

アホか俺は!!ぶんぶんと首を振り、妄想寄りの予想を振り払う。ないない絶対にない。あの吹雪だぞ?天然過ぎる吹雪だぞ?弁当作ることすら忘れてた奴だぞ?偶々偶然覚えていただけだ。そう、偶然なんだ。悶々とそんなことを思っているうちに目的地の秋葉原に着いた。


「いた…」

店内の奥の方の席で吹雪がドーナツをぱくぱくと食べていた。ちょこん、と小さくなって座り、リスのように両手でドーナツを持っている。

「吹雪、」
「んむ?…ごーえんじくん…」

そのまま吹雪の向かい側の席に座ってコイツが食べるのを待つことにした。吹雪は気を遣ってか、食べるスピードが早くなった。慌てるなと言って鼻を摘まんでやったら申し訳無さそうにごめんね、と言った。

「吹雪、ドーナツ何個頼んだ?」
「…二つ」
「足りなくないか?」
「だって、300 円しか持ってきてなかったんだもん。おにぎりだけ買うつもりで持ってきたから…」
「そうか、じゃあ奢ってやる。好きなの選んでこい」

ぴくんっと吹雪の見えるはずのない耳が立ち、目を輝かせたが一瞬だけだった。

「迎えにきて貰った上に奢ってもらうなんて…悪いよ…」
「俺がやりたいから、それだけだ。ほら、選んでこい。あ、ついでにコーヒー頼んでくれ」
「で、でも…」
「吹雪。」
「…………………はい」

吹雪は折れた。







***

「…………。」
「おいしーっ」

コーヒーの存在も忘れ、俺は吹雪の目の前に置かれた皿を見て茫然としていた。いや、好きなだけ頼んでいいとは言ったがこんなに頼むか?普通…。いや、金銭面は問題ないのだが、吹雪が完食できるのかが心配だ。俺には無理だ。それ以前に俺は甘い物があまり好きではない。

「豪炎寺君も食べる?」
「いや、俺はいい…」
「豪炎寺君のお金なのに…」

開き直って大量に買ってきたのは誰だ。
余裕綽々と食べ進める吹雪を眺めていると口元にクリームが付いているのに気が付いた。俺はそれを指で拭ってやろうと口元に人差し指を持って行く。

「んんっ?何?」
「じっとしてろ。クリームが付いてるぞ」
「えへへ、ありがとう」





ぱくっ






吹雪はクリームが付いた俺の指に食らいついた。


「なっ…!!?」
「勿体無いもん」

ペロペロの吹雪の口内で指を舐め回される。こいつの口の中は意外にも温かくて、小さな舌はとても柔らかい…なんて思ってしまった俺は完全に変態だ。
指が解放される頃には俺の指は吹雪の唾液でぐしょぐしょだった。

「………公共の場でこんなことするな」
「ふふっ、豪炎寺君、顔真っ赤だよー?じゃあ、公共の場じゃなければいいんだね」
「……………」
「え、なんでだんまり?ちょ、そこはあれでしょ、『そう言う問題じゃない』とか言うところじゃないの?」
「いや、…その」
「照れないでよ!!僕まで恥ずかしくなってきたじゃないか!!」

真っ赤にした顔を手で覆って吹雪までもが羞恥に悶えだした。いや、お前は自業自得だけどな。
さて、周りの視線がとてつもなく痛いのだが、どうしたらいいのだろうか?












「そういえば、なんで俺の携帯の番号知ってたんだ?(追い討ち」
「うぁあああああ…!!!(悶」





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