no title


2012/12/11 23:00
『自習!!』

でかでかとそう書かれた黒板を見て、呆れるしかなかった。











「先生、」
「んんー…やぁ、また君かぁ…」
「授業してください」
「ごめんね、僕今忙しいんだぁ…」

足をぶらぶらさせる。ていうか、

「それのどこが忙しいんですか!!いつもみたく、木の上で昼寝してるだけじゃないですか!!」
「ぉうおぉう…豪炎寺君って結構叫ぶねぇ…お兄さんちょっとびっくりー」
「先生だろ」
「指摘したからって冷めないでよ。あと敬語は使いなさい。一応年上」

ちょいちょいと自分に指を指す吹雪先生をスルーして俺はいつも先生が昼寝のベッド代わりにしている木によじ登る。先生が足置きにしている太い枝の上に座り、再び吹雪先生を見上げた。

「寝不足ですか?」
「あ、わかる?昨日日付越えちゃってさぁ…」
「それ、もう今日じゃないですか。…目の下に隈ができてますよ」
「あはは、目立たないと思ったんだけどな…」

隈を隠すようにごしごしと目を擦る先生。そんなことしても消えることはないのに…。

「仕事ですか?」
「うん、まぁね。大学の方に提出する論文。これが結構大変でね…本でも出版するんじゃないかってぐらいの量を書かなきゃいけなかったんだよ。ざっと10万字?くらいかな?」
「大変でしたね…お疲れさまでした」

純粋に労る気持ちで贈った言葉だったが、次の瞬間の呟きによってそれがあまり意味を成さないことを思い知った。

「まぁ、2時間で終わったんだけど」
「2時間?!」
「両手すごく痛いよ。タイピングってあんなに疲れるものだったけ?」
「し、知りませんよ…」

2時間で10万字ということは相当速くタイピングできるのだろう。吹雪先生のことだから下書きなしの即席だろう。これだから天才は…そりゃバスケ初心者なのにも関わらず3P入るよな。

「ふぁああ…今日は別の論文書き上げなきゃだし、帰宅するまでに考えとかなきゃなぁ…」
「大変ですね」
「うーん、学校の仕事も残ってるんだけどな…」
「じゃあ、寝てないでさっさと仕事したらいいじゃないですか」

吹雪先生は意外だというような目で此方を見つめた。まぁ、いつも『授業してください』って言ってるからだろう。俺から仕事を促されるなんて思ってもみなかったのだろう。

「皆が下校したら頑張るよ。この気持ち良い時間が惜しいからね」
「…俺は授業時間が惜しいですね」

皮肉めいたことを言ってみたが、先生は笑うだけだった。いやいや、あんた教師なんだから授業しろよ。
それにしても、吹雪先生はよくこんなところで寝れるよな。座ってるだけで不安定なのにベッド代わりに使うなんて…さすがと言うべきなのか。

「6限目どこのクラスだっけ?もう、自習でいいかなぁ?」
「いや、だめですよ」
「だよねぇ…授業進まないし」
「じゃあ5限目も授業してください」
「やーだよ」

ぷいっと子供のようにそっぽを向いてしまった先生。はぁ、本当どうすればいいんだこの残念な大人は…

「豪炎寺君は僕のお母さんみたいだね」
「先生は世話の焼ける大きな息子ですね」
「えー?そんな風に言われたことなかったけどなぁ…」

…ん?
今の返答、少し不自然だったような…

小さな違和感を感じながら先生を仰ぎ見ると、先生はうとうとと今にでも寝そうな状態だった。まぁ、疲れているのだろう。今日は目を瞑っててやろうか。

「先生、寝てもいいですよ」
「本当?珍しいね。君からお昼寝の許可が下りるなんて…明日は槍が降るね」
「失礼な。ただ、先生が本当に疲れてて眠そうだから…」
「うん、ありがとう…」

天才でも疲労というものはあるんだな。なんて、当たり前なことを思いながら逸らしていた視線を先生に戻すとすでに熟睡していた。それほど疲れていたということか。それにしても、なんでこんな不安定な木の上で寝れるのか全く持って疑問である。落ちる可能性を考えないのか?




「…明日、寝るんなら芝生に寝てくださいって言ってみるか」

なんて呟きながら俺は木から下りてその場を後にした。









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