no title


2012/12/03 01:18
とある日の昼下がり、俺は授業中にも関わらず教室を出てとある人を探していた。しんと静まり返った廊下は俺の足音しか聞こえない。早足で階段を下り、上履きのまま中庭へと出る。コンクリートから芝生へと変わった地面を容赦なく歩いていき、一本の木の下で立ち止まった。そして上を見上げると予想的中、俺の探し人が木の上でスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。

「吹雪先生」
「ん…」
「吹雪先生!!」
「んん…、あれ?ごうえんじ…くん?」

二回目の呼びかけで目を覚ました俺のクラスの担任。そして、国語の教科担当の先生でもある吹雪士郎先生だ。先生は眠そうに目を擦りながら上から俺を見つめている。

「先生、授業はどうするんですか」
「えー…?んー…じしゅー…」
「昨日も自習だったんですけど?」
「だって、もうすぐでてすとだよ?だからじしゅー…」
「毎日毎日毎日、この時間帯にサボるのやめてください」
「ぐぅ…」
「寝るなー!!」

うちの担任の吹雪先生は教師ながらもサボリ癖がある。毎日この昼食後のひなたぼっこに最適な時間帯である5限目は必ずサボるのだ。雨が降る日も図書室で寝ていたりする。何故、他の先生や校長が動かないかと言うと、彼の学歴が影響しているのだ。吹雪先生は12歳の時に高等部まであるエスカレーター式の超名門校を卒業し、14歳という若さでハー●ード大学を卒業した世間で言う『天才』だ。だから、そんな彼を獲得した校長は彼にあまり口出し出来ない。

「吹雪先生、授業してください」
「むにゃむにゃ…」
「俺は先生の授業が受けたいんです」

うっすらと目を開けて俺の方を見るが、ふいっとそっぽを向いてしまった。そしてまた眠り始めた。

「先生!!」
「豪炎寺君、人生の大先輩から少しだけ助言してあげよう」
「は、?」
「青春を楽しむのは今しかないよ」

そう吹雪先生が微笑んだ瞬間、ふわりと暖かい風が吹き俺達の髪を撫でていった。俺は吹雪先生が言ったことを心の中で繰り返す。青春…?を楽しむ…?学生の本分は勉学に励むことだ。これも青春のうちに入っているのでは?
ぐるぐると思考していると吹雪先生は苦笑い。

「僕は学生の時、青春なんて知らなかったんだよ。いや、寧ろ人生が勉学とすら思ってた」
「それでも、いいじゃないですか。青春なんて人それぞれ」
「そうだよ。でも、僕の考える青春は勉学に励むことではなかった。…大学を卒業した僕は本屋で初めて漫画を手に取ってみたんだ。そしたら泣いちゃったなぁ…」

懐かしむように吹雪先生は笑うが、どこか寂しそうだった。

「そんなに感動したんですか?その漫画」
「違うよ。内容は普通のラブストーリー。僕が泣いたのは後悔したからさ」
「後悔?」
「うん。『どうして学生時代を楽しまなかったんだろう』ってね。僕だって普通に青春を謳歌する機会はあったんだ。でも、自分から棒に振って学生を卒業してしまった。それが本当に悔しかった…今でも後悔してる」

よいしょと先生は起き上がって木に座り直す。多分、話していたら意識が完全に覚醒してしまったのだろう。しかし、まだ降りる気はないようで細長い脚をぶらぶらとさせている。

「だから僕は教師になった。そしたら学生としてじゃなくても学校生活を送れるから。で、こんな風に授業サボってるのは青春を謳歌しているからさ…お分かり?」
「分かんないですね」

即答で答えると先生はやっぱり?と返した。正直、先生が学生時代をどう過ごしたかなんてどうでもいい。教師になったんならそれ相応の仕事をして貰わなければ困る。それが社会人としての役目だと俺は思う。

「あぁ…僕さぁ、国語は本当苦手でねぇ…ごめんねぇ…こんなんじゃいつか豪炎寺君に言い負かされそうだなぁ…」
「なんで国語の教師なんかになったんですか…」
「苦手だからさ」

…天才の考えることはよくわからない。

「あ、でも教員免許は普通に取れるよ」
「あっそうですか」

聞いてない。


「ていうか、豪炎寺君いいのかい?」
「何がですか?」

にんまりと笑う吹雪先生の笑顔に嫌な予感がした。これは…まずいかもしれない。

「僕は『自習をしなさい』って伝えたはずなのになぁ…?自習サボって僕を探しにくるなんて…反抗的だねぇ?そんなに内申点下げて欲しいの?」
「なっ…?!」
「ほら、あと20分だよ。戻った戻った」
「き、汚っ!!」
「なんとでもー」

完全に自分を棚に上げてる。言い負かされそうだからって権力行使してきた…!!俺は先生を恨めしそうに睨んだ後、渋々と教室へ戻った。








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