執務室のソファーに寝そべりながら、ぶつぶつと一人愚痴を零している
嫌でも聞こえてくるその雑音に日番谷は眉間に皺をよせた



『ウルサいぞ、ギン』

『せやけど今日はボクに稽古つけてくれる約束やんか〜!』

『執務が終わってからだと言ったはずだ』



そう冷たく言い放ったものの、執務時間はとっくに過ぎていて
日番谷は一旦筆を休め机上から視線を上げると
ムゥッと頬を膨らませ、むすくれている市丸の様子に軽く溜め息を漏らした

しかし市丸はようやく視線を上げて自分の方へと向いてくれた事が嬉しかったのか
パァ―ッと表情を明るくさせると期待の籠もった瞳で訴えてきた



『終わったん!?』



まだキリが良いとは言い切れない所だったが
その真っ直ぐに向けられている瞳に負け、日番谷は席を立った



『あぁ、もうウルせぇなぁ!』



別に隊員に好かれようとは思わないが、
やはり自分を慕ってくれる存在というのはどうしても可愛く見えてしまう

先日霊術院を一年という異例の早さで卒業し、護廷に入隊したばかりの市丸は
見た目こそ日番谷とさほど変わらない子供のようだったが、実力も十分だということでここ十番隊に配属されて直ぐに席官を与えられた
するとサボリ勝ちな副官よりも良く執務室に来るようになり、最近は毎日のように入り浸るようになっていたのだった

そして時間をみつけては稽古をつけて欲しいと熱心に言ってくるので
日番谷は部下の育成も執務のうちだと思い、特別に市丸に稽古をつけてやっていた



『わかったよ、今から修練場に行くぞ。みっちり稽古つけてやるから泣き言言うんじゃねぇぞ!』

『おおきに!日番谷隊長〜!』



ずっと待てをさせられていた小犬のように飛び上がり、喜びを表現した市丸がぴょんと日番谷に飛びついてきて
銀色のサラサラの髪が擽るように肌に触れた



『だから!!抱き付くなっていつも言ってんだろうがッッ!!』



スキンシップに慣れていない日番谷は毎度こうやって市丸が直ぐに抱き付いて来ることに
始めは背が同じぐらいの子供だからとナメられているのかと思い、激怒していたのだが
どうやら悪気があるわけでは無いことに気付いた日番谷は、最近では言葉で駄目だと言いつつも、それを心のどこかで許している
そんな風に周りがわかってしまう程に、市丸の日番谷へのスキンシップは十番隊で日常の光景となりつつあったのだった



* * *



『おら、どうした?立てよ』



修練場ではぁはぁと息を切らせた市丸は、
その声に反応するように体勢を立て直し、立ち上がる



『さっきの威勢はどうしたッ!?もう終いか、ギン!?』



刀を握り締める手のひらに力を込め、渾身の力で日番谷に向かい斬魄刀を振るうが
やはり隊長である日番谷にまだ経験の浅い市丸がかなうわけもなく
軽々と切っ先をかわされ反撃をくらった市丸は地面へと崩れ落ちた



『もうそろそろ終わりにすんぞ。また明日、な』



そう言って地面に寝転がっている市丸に小さな手を差し伸べると
市丸はぼそりと今日も勝たれへんかった、と呟きながらその手をとった



『お前はオレに勝ちたいのか?』



何の気なしにそう聞くと、市丸はコクリと頷いた



『好きな子ぉに護られるなん、かっこ悪いわ』


『は…?』



小さな声でぼそぼそと呟いた市丸の言葉を聞き取ることが出来なくて
日番谷はもう一度聞き返そうとしたのだが、市丸が繋いだ手をいきなりグイと力任せに引っ張ったので
バランスを崩した日番谷は逆にそのまま市丸の上へと倒れ込んでしまい、
その隙に乗じて市丸は抱きとめた日番谷の頬に指先で触れると、薄く開いた柔らかな唇に自身の唇をそっと寄せた



『て、テッ、テメェ―――ッッ!!ななな何しやがるッ!?』



一瞬起きた出来事が理解出来ずに呆然としていた日番谷だったが
我に返ると真っ白な頬をかぁぁと真っ赤に染め上げ怒鳴り出した

その様子がいつもの凜とした隊長の日番谷の姿ではなく、素顔の日番谷が見れたようなそんな気がして
市丸は嬉しくてくすくすと笑った



『もしかして、初チュウやったりして?』



そうであればいいなぁと思い、からかい半分でそう言うと
容赦ない拳が振り下ろされ、市丸の頭上にヒットした



『痛〜っ!殴らんでもええやんか!減るもんやなし!』



そう言ったものの図星を突かれて怒る日番谷の様子が嬉しくて、市丸はまたくすくすと笑い出した
すると日番谷がもう一発ぶん殴ってやろうと拳を構えたので
市丸はそこから素早く逃げ出していく



追い付かれれば怒りの鉄槌をくらう事は明白だが、
それでも市丸は自分の事を日番谷が追い掛けて来てくれることが嬉しくて
全速力で逃げていく



『本当はずっと追い掛けとるんはボクの方やのになぁ』



そう一人呟いた市丸はとても満足げな笑みを浮かべ
隊舎までの道のりを鬼事を楽しむように帰路につく


いつか日番谷を護れるだけの力と、愛おしい者を包み込む為の広い心や大きな身体になるまでは
こんな関係も悪くないなと思いながら…



*end*


誕生日プレゼントに、不知夜月の雪さんに頂きました。
私が仔ギン好きー!!かわいいー!!
って騒いでたから、わざわざ書いてくれました^^
ありがとうございます!

本当にこの仔ギンかわいい!めちゃめちゃかわいい!
結局日番谷くんは仔ギンに弱くて、わがまま聞いちゃうんですよね。微笑ましいvv

ぜひともセットで我が家にほしいです!

ありがとうございました!
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