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リクルートスーツに身を包んだ同世代の男女が真面目な面で並んでいる。並んでいた。
突然後方のドアが開き、黒い服に身を包んだ数人の男がモンスターボールを放つ。何かのデモンストレーションかと思ったが、警備会社でもないメーカーの入社試験にそんなイベントを起こすわけがない。
テロだ。
各々がポケモンを繰り出した結果、会場内はパニックになりめちゃくちゃ。大袈裟じゃなく、どれが敵のポケモンかわからない。
混乱の刹那、窓ガラスに疾走する影が映った。私である。配られたパンフレットで水飛沫や砂塵から顔をガードしながら一目散に出口に向かっていた。
自分の姿を滑稽に思いながらも足は止めない。こんな所で怪我でもしたら。3日後には別の会社の面接が控えている。
それにテロリストの侵入を許す会社に誰が入社したいと思うだろう。
もう少しで階段、というところで曲がり角に人影を捉えた私はたたらを踏んだ。
誰?服装からして受験者ではない。しゃがみ込んだその人の左胸に赤が見え、一瞬どきりとするがよく見れば胸からの出血ではなかった。腕を押さえて息を殺している。
私は躊躇しながらもそっと声をかけた。
「あなた、大丈夫?」
「!」
話かけると振り返った青い目がぎりっと私を睨む。予想外の反応に気圧され思わず両手を上げた。
パンフレットがバサリと床に落ちた。水気を含んで曲がってしまっている。もう必要ないけれど。
彼はというと私の身なりを見て警戒を緩めた。しかし無防備な様を晒す事は赦さなかったのか、ゆっくりと立ち上がり壁に背を預けた。ひどく顔色が悪い。腕に負った傷は毒タイプのものたったようだ。
「薬探して来ようか?誰か持ってるはずだし」
「 ……結構です。そのうち治まりますから」
「そう」
正直あの場に戻るのは面倒だと思っていた私は食い下がることなく頷く。自然治癒されるのを待つのは相当苦しいと聞くが、この彼に対してそこまでする義理はない。
けれど放っておくことはできなかった。死にはしないだろうけどこの会社の状況を考えると放置はできない。
所在なく同じように壁にもたれると彼は眉を寄せたが何も言わなかった。ただ余裕がなかっただけかもしれない。
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