シルバー
小さくゆっくりと、規則正しく肩が動いている。
顔にかかった赤い髪にふれても、なんの反応もなかった。寝てる。
ソファーに座って調べものをしていたらしい。読みかけの本を傍らに、下を向いてシルバーは眠っていた。
「お疲れさま」
そっと本をどかし、こっそりとブランケットをシルバーにかける。
全然起きる様子がない彼の横に座り、私は彼にもたれてみた。ゆっくりと。
落ち着くところまで体重を預ける。そして目を閉じた。
このまま暫く起きないで。
起きたら、こんな風にくっつかせてはくれないから。
突っぱねる姿が容易に想像でき、声に出さず笑う。
この時間が幸せに思えた。
*
本を読んで、いつの間にか寝ていたらしい。うっすらと目を開けると体が重かった。
覚えのないブランケットが掛けられている。重みはこのせいか。
違った。
俺にくっつくあいつに気付き、反射的に押しのけようとする。
だが、あいつが寝ているのを見て手を止めた。
寝顔があんまりに幸せそうで。
「………。」
動けない。
手を浮かせたまま、完全にフリーズ。
無駄に時間が過ぎ、いい加減疲れてきたので腕を降ろす。この後俺にどうしろと。
あいつが起きるまで本でも読もうと思ったが、読みかけの本は少し遠いところ置かれていた。腕を伸ばすだけでは届きそうにない。
「、」
名前を呼ぼうと思ったが、ふと思い直し、なんとなく髪にふれる。
起こしてしまうのは勿体ない気がした。
起きたお前にはこんな風に触れられないから。
髪にあった指でそっと頬をなでる。
万が一、起きてしまったら、頬を軽く叩いて起こしたフリをしよう。
こんな天邪鬼な事を考えてしまう自分。
自分が天邪鬼だと気付いたのは、こいつに出会ってからだ。
好きな存在に出会えて、自分が好きな存在には素直になれないと初めて知った。
冷たくしたり、多分ひどいことも言った。
なのに傍にいてくれる。ありがたいことに。
「幸せ、なんだろうな」
こいつのお陰で。
だからこいつのことは、俺が幸せにしてやりたい。
そう、思った。
back