道連れ
タマムシシティの雰囲気が変わった。背中に突き刺さる視線、私を見て首を傾げる人。ただ今までの町と違うのは私が先だということ。
この街にも来たんだね、レッド。帽子を目深に被り顔を隠す。この纏わりつく空気に、果たして君は気づくだろうか?
アジトに戻ると廊下で「シグマ」と呼ばれ足を止める。この声は確か、ああやっぱりランスさんだ。そのランスさんが無表情でつかつかと歩み寄ってくる。いや笑顔でも怖いけど。…何ですか、仕事は終えたからさぼりではありませんよ?
「ちょうどあなたを探していた所です。ついて来なさい」
「えーお説教ですか?」
「……怒られる様なことをしたのですか」
「いえいえ。寧ろ少しは労ってほしいところです。目に見える形で」
「例えば?」
「これとか」
OKを示す指をひっくり返せばおやじ臭いと一蹴された。ひどい。
実際したっぱの私は給料(?)が安い。悪の組織って資金は沢山あるだろうにさあ。どうしたものか…
「そうだ。ランスさんがポケットマネー出してくれたらいいんだ」
「人を無理矢理巻き込まないで下さい」
ランスさんに続いて部屋に入る。彼の部屋に入るのはこれで2度目。相変わらず殺風景な部屋だ。ピッピ人形でも10体くらい並べて置いてやろうか。嫌がらせのためならお金に糸目つけないのが私だ。
「給料はやれませんが」
「!?」
見透かされたような言葉にぴしりと固まる。しかし関係はもちろんなく、ランスさんは机の上のモンスターボールを2つとった。そしてそれを私の手に乗せる。
「この2匹はあなたにあげますよ」
「え?」
顔を上げた表紙にボールが転がり落ちた。中からロコンとユンゲラーが姿を見せる。これはもしかしてサント・アンヌ号の。
「そのロコン、気性が荒くて他の者では手に負えないんですよ」
「気性が荒い?」
船で見たときは大人しかった。だから気性ではなく、連れてこられたことで怒っているんだろう。当然か。
ならその誘拐犯である私に渡すって、手に負える云々以前の問題だと思うんだけどな。
床に爪を立てているロコン。警戒した顔は目が合うとさらに敵意を増す。
「とても仲良くできる雰囲気じゃないんですが」
「そんなもの必要ありません」
「え?」
「無理矢理にでも言うことを聞かせればいいのです。出来なくはないでしょう?」
「はあ」
言われた言葉に曖昧な返事を返す。出来なくはない、か。簡単に言ってくれる。非情ですねランスさん。
「確かに渡しましたよ。それから、午後からのシオンタウンでの任務に貴方も参加してもらうことになると思います」
「シオン? なんでまたあんな辛気臭い町に。墓荒しでもする気ですか?」
「カラカラの目撃情報がありましてね。骨は高く売れるんですよ」
「!」
この上司は、非情じゃまだぬるいらしい。
ランスさんの部屋を出た私は少し早めに昼食をとり、それから自分の部屋に向かった。
ロコンとユンゲラーを手持ちに加えるためにメンバーを調整しないと。丁度メンバーを一新しようと思っていたらいい機会ではある。
数秒悩んで2匹を外す。預けるボックスは使えないからとりあえず部屋に置いておくしかない。
けどこれからも部屋に置き去りにはできないからこの子たちも逃す事になるだろう。ボックスの子たちのように。
「いいよね、別に」
シンと静まり返った部屋でボールに呟く。
そうさいいに決まってる。ロケット団の手持ちでいるよりは野生の方が、ずっと。
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