決死、決別の決戦
「邪魔はさせません」
説得を諦めたアポロはボールを掴み、デルビルを繰り出した。炎タイプ。ニューラもウツボットも不利だ。
すぐさまシルバーがウツボットに木の実を投げる。同時に私は指示をとばした。
「ウツボット、自然のめぐみ!」
受け取ったのはナナの実。ウツボットの口から激流が溢れ、デルビルを押し流す。
しかし一息つく間もなく、もう一体が姿を見せた。デルビルよりも獰猛な爪が床を踏みつける。
「ヘルガー」
「っ!」
落ち着いた声とは裏腹に、激しく燃え上がる炎が辺りを焼き払う。押し寄せる熱風に思わず目を閉じた。
目を開ければ、舞う火の粉の中に倒れたウツボットとニューラが。そして視線だけで射殺さんとするヘルガーと目があった。
桁違いの火力に息をのむ。おそらく、切り札だ。ピンチはチャンスとはよく言ったもので、このヘルガーを倒せればつまり勝利を意味する。
けど。所詮はピンチ。
じっとりとした汗が出たのは灼熱のせいだけじゃない。
戦えるのはギャラドスだけだ。
勝ち取る、なんて強気に思ってみたけど今の私に戦う力は殆どない。
とられて、傷つけて。そして次は利用する?ギャラドスは道を一緒にしただけで、共に戦うパートナーじゃない。それなのに、「この状況でならしかたない」ってそんな都合で戦わせるのはあまりに勝手だ。しかもさっき危険な目に合わせたばかり。
でも。でも今は引き下がれない。自分の力だけじゃ戦えないの、お願い。
唇を噛んでボールを掴む。
しかし投げようとした動作は、遮るように伸びる右腕に阻まれた。
「!」
「オーダイル、いけ!」
背中が目に入る。私に戦わせまいと、庇うように守るように立つ背中が。
オーダイルがヘルガーに向かうより、私はシルバーの後ろ姿ばかり見ていた。戦況なんて頭に入らない。だって、だって。こんな風に守られたことなんてなかった。
助けられたことはある。でもそれはお互い様で。声に背中に迷いはない。堂々と立つ、そんなシルバーに私は守られている。
オーダイルがヘルガーを倒した瞬間より、その背中に魅入っていた。
「何をしでても会いたい奴は、親父じゃなくなったんだ」
「!」
その言葉に私は我に返り、アポロもはっとシルバーを見た。
「他にできた」
凛とした声がフロアに響く。
少年は過去の縛りから抜け出した。
そしてその変化は、一つの願いを断ち切るのだろう。
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