森に響く声々
ウバメの森は神様を祭った祠があるらしい。そう言われると緑が神秘的な気がしてくる。前みたいに草木を踏み分けてショートカットは出来ないなぁ。
「シアン。今、何考えた」
「別に。てか語尾にハテナは?」
「どうせ突き進もうとかそういうろくでもないことだろ」
「………」
妙な方向で把握されている。そんな思考ばっかしてるわけじゃないって!
そういえばさー、と話を逸らすように口を開いた。不自然すぎるフリだけどロケット団の話に釣られないはずがない。
「ロケット団、知ってるよね?」
「! ああ…」
仏頂面が僅かに崩れる。やっぱり気になるらしい。私は続けた。
「また復活したんだって。今は勢力は小さそうだけど、さっき井戸で見たんだ」
「お前、井戸に行ってたのか」
「うん」
「それでどうした?」
「え? いや、別に見ただけだけど」
「………」
「?」
見ただけ。そういうと微妙な表情だったシルバーの顔が変わった。鬼の首でもとったみたいに。
「なんだ。びびって逃げてきたのか」
ピシッ
表情筋が一瞬機能しなくなった。
馬鹿にしたような笑みに久しぶりにいらっとした。てめ、人が教えてあげてるのに!
「じゃあお前ならどうするの?」
「倒すに決まってんだろ、普通。ロケット団なんか敵じゃない」
「ふーん。じゃ、今から倒してくれば?」
「は?」
「この道戻ってさ。ヒワダにはすぐ着くだろ」
足を止め、巻き込まないようにしていたのも忘れてシルバーを煽る。気づいたのは口に出した後だった。
やばい。乗ってきたらついて行って手を貸すしか、言った手前止められない。
しかし帰って来たのは予想外の言葉だった。
「ふん、生憎だがもう井戸にはいない。子供2人に負けたからな」
「…………、へ?」
いない? 子供に負けた?
ぽかんとする私を置いてさっさと歩きだすシルバーに我に帰り追いつく。
ロケット団に立ち向かった、しかも子供が。1人じゃないとはいえ、危険すぎる。
そんな真似をさせるなら私が倒しておけばよかった。
だって私は関係ないんだから。この世界で生まれ、成長していくはずの子が棒に振るような危険に踏み入らなくていい。
はずだ。
あれ? そういえば
「シルバーお前井戸には行ってないって言ったよな!?」
「! か、関係ないだろお前には!!」
思考を振り払うよう声を上げて突っ込めば、シルバーも予想以上に怒鳴り返してきたので目を瞬く。
どちらの声に驚いたのか、野生のポケモンまでが逃げていく音がした。ああ、今までポケモンが出てこないと思ったらそういうことか。野生の勘で私達の空気を感じ取っていたらしい。
まあ、いい虫よけになったんじゃないでしょーか。
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