「馬鹿、お前なんで泣き始めるんだよ!さっき泣きやんだばっかりじゃねーか!」

丸井くんはおろおろとし始めた。俺が泣かせたのか!?、とか俺別に泣かせるようなことしていないとかそんなことを呟いている。
違うよ。そう言いたくても泣いているせいか上手く言葉が出ない。

「バカ。」

そう声をしぼり出し、私は抱きついた。けっこうな体重をかけて。でも丸井くんは受けとめてくれた。
ついこの間なら。私はこんなことを丸井くんにするなんて考えられなかった。嫌いで、大嫌いで、怖くて。
それでも。

「好きだよ、本当に。」

自然に言葉が落ちた。

「お前…Mなのか?」

とても不思議そうに私を見てきた。本人も、私には嫌われていると思っていたのだろう。確かに酷いけれど、酷い行為の奥にある気持ちを知ってしまったから。それに

「好きなんて重い気持ちはそう簡単に変わらないんよ。」

涙がらも笑うと、丸井くんは照れたように顔を赤くして、でもプライドからか顔はムッとしたまま強く抱き返された。
ゲーム…は私の負けだね。




「……ぁ。」
「声出すの我慢するなって。」
「無理だって!隣で演劇部が部活してるんだよ!」
私はそう言って唇を噛んだ。もちろん声を出さないようにだ。
丸井くんはそんな私に追い討ちをかけるように耳を舐めてきた。くすぐったいし、やっぱりその…感じてしまう。私は声を出さないようにさらに唇を噛んだ。
頑なな私の態度にムッとしたのか、耳を舐めるのを止め胸を触ろうとしてきたから慌てて離れた。

「そんな目で見てきてもダメなものはダメだから。」

子犬のような目で訴えてくる丸井くんにピシャリと言いつけた。



あの後、正式にということでお付き合いすることになった。けれど、ゲームの最中で付き合っているような行動ばっかりとっていたから、あまり関係は変わらなかった。

「まぁ、いつも触ってばっかだと次第に体も慣れちまうよな。適当に期間は開けないとな。」

そう怪しく笑う丸井くんは相変わらず腹黒いし、性格も悪い。私の大好きだった犬みたいなのともほど遠い。
だけれどやっぱり好きで、離れられない。馬鹿なのは勿論分かってる。でももう後戻りなんて出来ない。難解な迷路に迷いこんでしまったから。

「ねえ、そういえば願い…だったっけ。もし私が丸井くんのこと好きになったら叶えさせる願いってなに?」

とりあえず話をそらそうとして私言った。疑問に思っていたのも確かだが。

「ずっとお前の人生に居続けてやるよ。拒むなよ。」

そう言って丸井くんは私に唇を重ねた。



第一部完


20121101

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