なにが起きたのか理解できなかった。だって今まで私に優しくしてくれていた仁王くんとは別人だったから。私を見下ろす目に感情がこもっていない。それが丸井くんよりもずっと怖い。
「やめて…。」
声に力がこもらないし震える。明らかに脅える私を見て、仁王くんは空っぽの笑顔で笑った。
この状態のままはマズイと思って、手足をジタバタと動かそうとしたけれど恐怖から体が動かなかった。まるで全身が凍て付いたようだった。
「見た目はとくに変わったとこないんじゃがなー。体つきもそう魅力的なわけでもない。」
私を舐めるように見てくる。そっぽを向いてみたら手で顔を包まれ強制的に仁王くんのほうを向かせられた。
「叫んだら歯止めきかんくなるからな。」
そう仁王くんは私に脅しをかけると、私の制服のボタンをとりはじめた。
いやだ、怖い。仁王くんは絶対私を犯すつもりでいる。空っぽな目からそんなことが読み取れて涙が滲んだ。丸井くんはキスとか体触ってきたりしてきたけれどなんだかんだで犯してこなかったし。
丸井くんにそう会ってないことないはずなのに、酷いことをされたのに会いたいって気持ちが止まらない。なんで?こんな状況だから?それとも?
私が涙を流していても構わず、仁王くんは私のスカートを捲りあげた。太股が直接外気にあたる。
それでも恥ずかしさよりも、もう怖くて、でも会いたくて仕方なかった。
「なぁ、さっきからどこ見てる?そんな自分の体に興味ないふりしていいんか?」
私が抵抗しないのが嫌なのか仁王くんは苛々しながら言うと、私の首に吸いついた。キスマーク。またの名は所有印。私は仁王くんなんかに所有された覚えはない。
丸井くんは一回だけ本気で私に謝ってきたことがあった。ショッピングモールに行って私が貧血で倒れ医務室で安静にしていたときだった。私は驚いたけれど、それだけ私のことを心配してくれていたのかな、なんて。
私がこの前脱いだとき、最後に丸井くんが、私の行動をやめさせて抱きしめてくれた。素肌に触れた彼があったかかった。顔が…、苦しそうだった。
「そんな無視するんならもう段階なんてふんでやらん。すぐ挿れるから。」
仁王くんはベルトをカチャカチャといじりはじめた。
私は叫んでた。
そう、いつのまにか彼の名を。
「丸井くん!助けて!」
屋上にいるであろう相手にはぜったい届かないであろうその叫び。だけど、叫ばずにはいられなかった。
「ブンちゃんはこんじゃろ。しかし不思議じゃ。なんでブンちゃんがこんな女のことなんか好きに、」
「え?」
丸井くんが私のことが好き?言っている意味が分からなくて聞き返そうとしたときだった。仁王くんが私の上から消えた。否、現れた人物におもいっきり蹴られ私の上から落ちたのだった。
「なにみょうじにやってるんだ?」
赤い髪に紫の冷たい瞳。場にそぐわず膨らむ青リンゴ味の風船ガム。確かに彼がそこには立っていて。
「ブン太…。」
「バーカ。油断しすぎ。」
仁王くんがいなくなって上体を起こし、スカートを直して立ち上がった。若干足が震える。
「ブンちゃん来たんか?」
「俺とみょうじのゲーム邪魔すんな。」
「どちらかというとブンちゃんがプレーヤーじゃろ。対戦ものというよりは一人でやるゲーム。」
「っ!とにかくみょうじに手出すのはやめろっ!」
丸井くんの顔がひきつった。痛いところをつかれたみたいに。でも対戦ものではなくて一人でやるゲーム、っていう例えの意味が理解しかねる。私と丸井くんの勝負じゃないの?
もう今日は意味が分からないことが多すぎるよ。
「んー。まぁブンちゃんが傍にいたら無理じゃな。」
あっけなく仁王くんは告げると、じゃあな、と不吉に笑うと去っていった。
後ろ姿が見えなくなって、私は情けないことに地面に足をついて泣き出した。
20120911