……一体何がどうなって、こうなったのでしょうか?
隣りを見上げればヴェルノさんがとっても機嫌良さそうに私を見下ろしておりました。
あのお城に行ってから三日。私はあのまま熱を出してしまったそうなのです。
そう、というのは記憶が曖昧であまり覚えていないからなのです。
ホッとして泣いて、なんだか勢いあまって泣き過ぎてしまって、途中でヴェルノさんに馬鹿馬鹿言ったり肩を叩いたりしてしまったような…。
目が覚めたらヴェルノさんのお部屋でアイヴィーさんも一緒におりました。
そうしてお腹が空かないかと聞かれたので空きました、と答えたら今この状況なのですよ。
船の食堂で椅子に座って、目の前にはヌイグルミの時にも使っていたあのにんじんのお皿とお魚のフォークやスプーン。美味しそうな匂いがするのです。
「腹減ってんだろ?食えよ。」
「そうそう。真白ちゃん思ってたよりずっと細いんだもの、沢山食べなきゃ駄目よ〜?」
隣りからヴェルノさんが、正面でニッコリとアイヴィーさんが言います。
ついでに言いますとヴェルノさんは私の頭を撫でたり、その、こめかみキスしたりと…スキンシップが激しいのですよ!
別のテーブルでは幹部の方々が興味津々といった顔でこちらを見ておりますが、できればヴェルノさんを止めていただけると助かるのです。
「い、いただきますです…。」
消化に良さそうなものばかりが並んでおります。とりあえずミルク粥に手を伸ばします。
柔らかくミルクで煮込まれたパンが甘くてとっても美味しいのですね。
もぐもぐ食べているとアイヴィーさんは嬉しそう。ヴェルノさんは私が何かを食べる度に口元を拭いてくださったり、あれを食べろ、これを食べろと勧めてくださったり。
なんだか以前にも増して過保護になってはいませんでしょうか?
「あ、あの、ヴェルノさん…?」
「ん?どうかしたか?」
「いえ…何でもないのです…。」
ん?首を傾げるヴェルノさんの声がすごく優しいのです。今までも優しかったのですが、こう、何と申しましょうか…甘やかそうとしているのか、とてもゆったりと言い聞かせるかのように話すのです。
アイヴィーさんは普段よりも笑顔が二割り増しな気がします。
頬に触れたり、頭を撫でたり。人間の姿に戻ったのにヴェルノさんは相変らず私を抱きかかえようとしますし…。
――――真白、お前は俺の物だ。人間に戻ったら俺の女。それ以外は認めねェ。
ずっと前に言ってくださった言葉を思い出してしまって私はもう穴があったら入りたい気分です。
あの時はヌイグルミでしたし、ヴェルノさんの気紛れかとおもったのですが。チラリと見てみれば黄金色の瞳が蕩けそうなくらい優しく私を見つめ返してきました。
嘘か本当かくらい私でも見分けられるのです。
……ヴェルノさんのことは好きです。大好きなのですが、こうも全身で表現されますと日本人の私としましては恥かし過ぎて素直になれませんと言いますか…。
悩んでいたせいで動きまで止まってしまっていたのでしょう。
私の手に大きな手が重ねられてギョッとしてしまいました。
「んな気ィ張ってんじゃねェよ。すぐにすぐ食ったりしねェっての。」
「ほ、ほんとですか…!」
「まぁ今のお前じゃ細過ぎるからな。食うならもっと肉付けてからだろ。」
「!」
なんと生々しい!食堂のどこかからヒュー!ヒュー!と囃し立てるように口笛が聞こえてきます。
いいえ、絶対にそこは囃し立てる場面ではありませんよ!!
思わず今までの癖でヴェルノさんの額を叩いてしまいました。私の力なんて大したことはないでしょうが、ベチリと音がします。
「教育的指導なのです!」
正面で「教育って…アタシ達海賊に?」とアイヴィーさんが噴出しました。
叩いた手首を掴まれて逆にヴェルノさんの腕の中に引きずり込まれてしまいます。
「で?お前は俺にどんな指導をしてくれるってんだ?」
クククッ…と楽しげな笑い声が頭上から降ってくるのです。
遊ばれていることは一目瞭然なのに、やっぱり怒れないのはヴェルノさんが優しく宥めるように背中を叩いてくれるからでしょうか。
「い、色々なのですよっ。」
「へぇ…色々なぁ?」
私が答えられないのを分かっていて、意味深に問い返すヴェルノさんの胸を叩いて抗議してみても、全然気にされないのが悔しいのですね。
耐え切れない様子で笑い出したヴェルノさんにつられたのかアイヴィーさんや幹部の方々まで笑い出し、結局食堂は笑いの渦に包まれたのです。
楽しそうな笑い声に自然と私も笑ってしまいました。
脇に手を差し込まれ、膝の上へ抱え直されると珍しくヴェルノさんが頬を寄せてきます。素直に私も頬を擦り合わせ、離します。
かなり近い位置にある黄金色の瞳に見つめられると息が詰まりそうなくらい恥かしいですが、同じくらい心がほっこりして幸せになれるのです。
そっとヴェルノさんの耳に顔を寄せて、周りに聞こえないように手で隠して内緒話。
「ヴェルノさん、ヴェルノさん。」
「何だ?」
「私、ヴェルノさんを好きになってしまったのですよ。」
ひっそり言った言葉に黄金色の瞳をまぁるくしてヴェルノさんが一度私を見るのです。
それから、今までみたいなニヤリとした笑みではなく、子供みたいな眩しい笑顔を浮べたかと思うとギュッと抱き締められてしまいました。
「馬ぁ鹿。んなモン、最初から知ってたっつーの…!」