結論だけ申しますと、お城のある島には無事到着したのです。
途中の航海は全くの平和そのもので嵐に合うことも大渦に巻き込まれることもなく、穏やかな日々が続きました。
それにはヴェルノさんも関係していらっしゃるみたいなのです。ヴェルノさんが航海士さんにどの方向へ進むのか細かく指示をして、その方向へ進む、というのを何度も繰り返しておりました。
もしかしなくとも一度島へ行ったことがあるのでしょうか?
聞きたかったのですがタイミングを逃してしまって最後まで聞けず仕舞いでした。
着いた島は一言で例えると‘南国’の島なのです。真っ白な砂浜と青く透き通る海、綺麗な珊瑚、島には木々が生い茂っていて鮮やかな色合いの花がそこここで咲き乱れております。
「お花!」
「無闇に触んな。この島の花は毒持ちが多いぞ。」
「!」
あんなに綺麗なのに!ヴェルノさんが可笑しそうに笑っておりましたが、私は全然楽しくないのですよ。
森の中を歩くということもありまして私はいつものようにヴェルノさんに抱えてもらうことになりました。
見た目よりも森の中というのは日が当たりにくいのか薄暗くて、今にも何かが出てきそうにオドロオドロしいのです。これぞまさに冒険に相応しい森なのですね。
セシル君にいただいた棒で草木をペシペシと叩いておりましたら隠れていた蛇まで叩いてしまい、さすがにこれはアイヴィーさんに怒られてしまいました。ごめんなさいなのです。棒は没収されてしまいました。
「あとどのくらいかかるのですか?」
「もうそんなにはかからねェはずだ。島の真ん中だしな。…暇か?」
「少し暇なのです。木ばっかりなのですよー。」
「我慢しろ。城に入れりゃお前のやりたがってた‘冒険’を否が応でもやらなきゃならなくなる。」
「冒険!先頭は私がやりたいのです!」
「…お前は…。ったく、好きにしろ。」
呆れながらも許可をいただけて嬉しいのです。
冒険で先頭に立てるのは隊長なのですよ?皆さん、私についてきなさい!…なんて事は言えませんが、ヌイグルミの私ならば危険があっても大丈夫ですから。
生い茂る木々や葉を避けながらヴェルノさん達は森の中を進みます。
船員の半分程の方々が船に残り、後の半分は一緒に随行なさっているのです。
アイヴィーさんの得た情報では既にカルヴァートもこの島に到着しているのだとか。会いたくないですが、ヴェルノさんが会うのだと言うなら私は我慢するのですよ。
お城に近付くにつれてワクワク感と嫌だなぁという気持ちがずっしり重く圧し掛かります。
ガサリ。大きな葉っぱをヴェルノさんが避けると途端に視界がパッと開けて、目の前に大きなお城が現れました。
「こ、これがお城ですか!」
「あぁ。」
「全然小さくないのですよ!大きいのです!!」
「そうか?これくらいなら小せェだろ。」
ヴェルノさんがあっけらかんとおっしゃり、隣りでアイヴィーさんが頷きました。
後ろの船員の方々はポカンと口を開けております。…やっぱり、大きいですよね?このお城。
そしてお城の入り口のような場所にはずっと前に見た海軍の軍服らしきものを着た人々が数人立っておりました。恐らく見張りだったのでしょう。
私達に気付くと剣が引き抜かれます。
「お前は此処にいろよ。」
「了解なのです。」
大きな木の根っこに下ろされます。わたしはいても邪魔ですからね。
船員の方々を引き連れてヴェルノさんは剣を引き抜き、海軍の方々と応戦します。カンッ、キンッと金属同士のぶつかり合う甲高い音がそこかしこから聞こえ、慌ただしくなりました。
一応私もルイスさんからいただいた短剣を隠し持ってきております。
いざとなったらそれで戦うことになるのでしょう。
戦うのはとても怖いのですが、ヴェルノさん達のためならば頑張って戦うのです。
そうこうしている内に金属音が聞こえなくなり、鞘に剣を収めたヴェルノさんが不敵な笑みを浮べて戻っていらっしゃいました。
倒れている海軍の方々は死んでしまったのでしょうか?
「行くぞ。」
「はいなのです。」
ジッと見てしまっていたからか、ヴェルノさんは珍しくちょっと困ったような顔をされました。
「そんな見んな。安心しろ、殺しちゃいねェ。気絶させただけだ。」
「そうなのですか、良かったのです。」
きっと私のことを気にしてくださったのでしょう。ヴェルノさんはいつだって優しいのです。
お城の入り口に立つとアイヴィーさんがまず門に手をかけました。しかしパチンと何かが弾けるような音がして触れた手が跳ね返されてしまいました。
「んもう、乱暴ねぇ!」とアイヴィーさんが言います。元々分かっていたことのようで怒った様子はありませんでした。
「どうやって開けるのですか?」
見上げた先のヴェルノさんは楽しそうに口角を引き上げて、私を抱えていない方の手を門へ伸ばします。そして何の抵抗もなく門を開けてしまいました!
驚いて思わず門とヴェルノさんを交互に見てしまうのです。
しっかりと門の柵を握って入り口を開けると全員がきっちり入るのを見届けてから門を閉め直しました。
私も驚きましたが倒れていた海軍の方々の中で意識を取り戻したらしい何人かの方は、もっと驚いた顔でヴェルノさんを見ておりました。まさしくありえない、という表情なのです。
アイヴィーさんと幹部の方々は訳知り顔でしたが教えてはくださらないようなのです。
「さぁ、お前の好きな‘冒険’の始まりだ。」
私を床へ下ろしてくださったヴェルノさんが観音開きの大きな扉を両側へ目一杯押し開きました。
少しの埃臭さと、カビのような香りに不謹慎ですがドキドキと高揚してしまったのですよ。