雨天ばかりの島から離れて五日、ようやく次の島に到着できました。
ヴェルノさんの言葉通り晴れた陽気の良い島は真っ青な空に囲まれております。
前回の島はこの島に晴れを取られてしまったのではないかと思うくらい、島は天気が良いのです。暑いくらいの陽気に皆さんは薄着でいます。私も少し暑いのですがヌイグルミですから薄着になってもほとんど意味がありません。
皆さんが暑いと薄着になっているのにヴェルノさんは普段と変わらない格好で平然と私をいつも通りに抱えております。
………暑くないのでしょうか?
顔色をこっそり盗み見ても涼しげな表情で欠片も暑そうには見えません。
「…暑くありませんか?」
我慢できずにそう聞いてみましたら、ヴェルノさんはその表情通り「暑くねェ」と答えました。
薄着で甲板を動き回っている船員の方々を横目に見てヴェルノさんは鼻で笑います。
「これくらいでダラけるようじゃ、使いモンに無んねェな。」なんて言うのです。船内から出てきたアイヴィーさんも薄着にはなっておりませんでした。
「まぁ、アタシ達が生まれた島はすごく暑かったものねぇ。」
「そうなのですか?ではもしかして冬は苦手だったりするのですか?」
「残念。冬は冬でかなり寒かったのよ?寒暖の差が激しい島だったから多少暑くても、勿論寒くてもアタシとヴェルノは平気なのよ〜。」
「それはとっても羨ましいのですよ。」
私は暑いのも寒いのも苦手なのです。でも暑い方が苦手だったりします。
冬は着込めますが、夏は暑くてもそれ以上脱ぐことができませんから。
そう言うとアイヴィーさんは「大変そうね。」と、ヴェルノのさんは「だろうな。」と笑いました。
それと同時に後ろから船員の方の「接岸しました!」という声が飛んできてアイヴィーさんはすぐにそちらへ歩いて行きます。ヴェルノさんは私を抱えたまま船首に留まってのんびりと潮風を楽しんでいらっしゃる様子でした。
私も真っ青な海とどこまでも晴れ渡った空を眺めてみます。
そうしてヴェルノさんを見上げました。
海の青と空の青が混ざったような綺麗な青い髪と、閉じられている黄金色の瞳を思うと晴れた日はヴェルノさんの日なのだなぁと思いました。
「ヴェルノさんは晴れが似合うのですね。」
「そうか?」
「はいです。空と海の青と、太陽の金色がそっくりなのですよ。晴れの日はヴェルノさんみたいで好きです。」
「すげェ殺し文句だな?」
「? 私はヴェルノさんを殺したりなんてしませんよ?」
「くくっ…違いねェ。」
なにやらヴェルノさんは目を開けると酷く愉快そうに喉を震わせて、私を左腕に抱え直しました。
そうしてゆったりと甲板を歩いて島に下りる縄梯子のところまで来ます。
既に船員の方々の大半は船を下りてしまったようで残っているのは船番の方々くらいものなのです。器用に片腕で縄梯子を下りたヴェルノさんは街の中心へ向かって港を横切りました。
活気のある街では沢山のお店が軒を連ねて至る所からお客さんを呼び込む威勢のいい声が響いてきます。
色々なお店に目移りしている私の諌めるように撫でながらヴェルノさんは大きな欠伸を一つ。この島までの航路の中にやや荒れた海域があったせいであまり眠れていないようでしたので、きっと眠たいのでしょう。
疲れが取れていないのかもしれません。
素直に腕の中で静かにしていればヴェルノさんの茶化すような声が上から降ってきます。
「店は見なくて良いのか?」
「今日の私はお買い物お休み日なのですよ。」
「何だそりゃ。まぁ、少なくとも数日は滞在するつもりだから構わねェか。」
「? この島には長くいるのですか?」
「たまには船の状況も調べねェといけねェからな。」
そういえば前の島で港に船底が擦ってしまったのでしたっけ。
穴が開いて浸水しては一大事なので、この島で修理するのでしょう。船がどれくらいで直るのかは分かりませんが早くはないと思われます。
それまではのんびり観光を楽しむという訳ですね。
お店が並ぶ大通りを抜けたヴェルノさんは一本裏通りにあった宿屋さんに来ました。よく道が分かるなぁと感心しておりましたが、どうやらこの宿には何度か来たことがあるようで中へ入ると少し年を取った女性が笑顔で部屋の鍵をくださいました。
部屋のベッドにポイと投げられて弾みながらヴェルノさんに問い掛けます。
「ヴェルノさんは海賊歴が長いのですか?」
「そうだな…多分七・八年ってところだろ。」
「長いのですね!行ったことのない島はあるのですか?」
「小さな島ならほとんど行かねェな。大抵は大陸だけだ。」
大陸は物資に事欠かねェから、小島より楽に物が手に入るんだよ。
その言葉になるほどと納得してしまいました。きっと小島では運搬費用などで物価も上がるでしょうから、大陸の方が安くて良いのでしょう。
ふあぁ、と欠伸をまた零したヴェルノさんは珍しく自分で頭の布を外して枕元に乱雑に置くとシーツを引き寄せました。
定位置と化したヴェルノさんの腕の中に引き込まれながら見上げれば、もう目を閉じておられます。
この島の名物などを聞いてみたかったのですがヴェルノさんの眠たげなご様子では無理でしょう。
聞きたい気持ちをグッと抑えて私も眠るために目を閉じることにしました。