「おーい、酒が足りないぞ!!酒ーっ!!」
「こっちは料理もだ!」
宴会さながらの大騒ぎとなっている船員の方々を眺めながら、私はヴェルノさんの膝の上でいつも通り夕食をいただいております。
あの後アイヴィーさんが連れて行ってくださったお店は可愛い小物などが沢山ありまして、満足行く食器を買うことができました。
お皿はにんじんの形とオレンジ色で、フォークやスプーンなどは青色の持ち手部分がお魚になっているものです。
ちなみにお皿を選んでくださったのはヴェルノさんなのです。
兎には人参だとおっしゃって、冗談交じりにアイヴィーさんに渡していました。
紙袋に入れてもらい今は私の手の中にあります。レイナーさんが船へ持って行きましょうかと言ってくれたのですが、持っていたかったのでご遠慮させていただいたのです。
皆さんは久しぶりに揺れの少ない寝床で寝れる!と喜んでいらっしゃいますが、私はなんだか少し落ち着きません。
揺れに慣れてしまった今となっては逆に船の方がいいのですよ。
そうしてヴェルノさんの左右にはナイスバディな女性が二人、座っていらっしゃいます。
でもお酒を注いだりする程度で何故かあまりお話はしないのです。
「今日はこのお店で寝るのですか?」
少し汗を掻いたグラスでお酒の色を楽しむように眺めているヴェルノさんに聞きましたら、溜め息のようにあぁと返事が返ってきました。
「久しぶりだからな、どうせアイツらも今晩は船に戻らねェだろ。」
「徹夜で夜遊びですか?私は夜に出歩いたことがないのですが、どんな遊びをするのですか?」
「…今のお前にゃまだ早ェよ。そのうちな。」
一瞬眉を寄せて変な顔をしたヴェルノさんがポンポンと頭を撫でてくださいます。
両側の女性がクスクスととても楽しげに笑いましたが、何かおかしかったのでしょうか?
見上げてみてもヴェルノさんは何もおっしゃりません。
こういう時はどんなに聞いても答えてくださらないので仕方なくジュースを飲むことにします。
…リンゴのような甘酸っぱいジュースなのです。
思わず美味しくておかわりをしましたらヴェルノさんに可笑しそうにクッと喉の奥で笑われてしまいました。
「アイヴィー。」
それから少しして、不意にヴェルノさんがアイヴィーさんを呼びます。
アイヴィーさんは何やらニッコリ笑って頷くと私を抱き上げてくださいました。
「はいはい、それじゃあ真白ちゃんはアタシと船に戻りましょうね?」
「私は船でお留守番ですか?」
「そうよぉ。真白ちゃんにはまだちょっと早いもの。アタシと一緒に留守番よ。」
ヴェルノさんと同じようなことをおっしゃいます。
ですが、お二人がそう思うのでしたら私は我慢しようと思います。
人間に戻ったら俺が教えてやる、とヴェルノさんにお約束してもらいましたので夜遊びはそれまでのお楽しみにとっておくことにしましょう。
アイヴィーさんと一緒にお店を出ると外は既に真っ暗です。白に近いお月様の光りに負けないくらい、島中の至る所は明るく灯されていました。
「なんだかお祭りみたいなのです。」
「オマツリ?」
「はい。神様に感謝とお祈りをする行事なのです。踊ったり、騒いだり、私はよく屋台を回っていろいろな物を食べてました。」
私の言葉にアイヴィーさんは「真白ちゃんらしいわね。」と笑って、途中の屋台のようなお店で飴を買ってくださいました。
リンゴ飴によく似ていて、果物を飴で包んだそれは赤い綺麗な色なのです。
けれどすぐに食べてしまってはもったいないので今日は眺めるだけにします。
松明や蝋燭の光りに照らされた飴は赤く綺麗な光沢を放って、鏡のように私の顔を反射させていました。
私も小さい頃はよく駄々を捏ねてお父さんに飴を買ってもらいました。
……あれ?
お父さん…お祖父ちゃんでしたっけ?
思い出せなくて小首を傾げてしまっていましたら、呼ぶ声がします。
顔を上げるともう船が見える場所まで戻っていまして、見張り台の上から居残り組の方々が手を振っていました。
それに手を振り返せば楽しげな笑い声が返ってきます。
「今日は一緒に寝ましょう?真白ちゃん。」
「アイヴィーさんとは初めてですね。」
「そうね、ヴェルノは独占欲が強いから。」
「?」
意味はよく分かりませんでしたが、アイヴィーさんは穏やかな笑みを浮べていらっしゃいました。
幸せそうで、温かな笑みに私の心もほっこりします。
手に持っていた飴を見ても、やはり小さい頃に飴を買ってくれたのが誰だったのかは思い出せませんが、心がぽかぽかと温かくなります。
きっとド忘れしているだけなのですね。
アイヴィーさんに抱えてもらって船へ戻ると船員さんたちが「お帰り」と声をかけてくださいます。
なんだか沢山の家族ができたようで嬉しいのです。
ヴェルノさんのお部屋でシャワーを浴びて、買ったばかりの食器を料理長さんへ渡して、アイヴィーさんのお部屋へ行きます。
先視師さんにいただいたブローチはヴェルノさんのお部屋に置いておきました。
アイヴィーさんのお部屋はヴェルノさんのお部屋の近くなので、とても覚えやすいのですよ。
ドアをノックしましたら、すぐに開けてくださいます。
「いらっしゃい。」
「お邪魔しますです。」
結局その日はヴェルノさんは帰らないとのことでしたので、アイヴィーさんとお洋服の布のお話などをしてからベッドで一緒に眠りました。