食事を終え、さて部屋に戻ろうかという時に聞き覚えのある声が後ろから飛び込んできた。
「おっ、いたいた!おーい!」
振り返るか振り返らずそのまま歩き去ろうかと逡巡している間に少女が振り返ってしまう。
あ、という表情をして見上げてきた。
無視するわけにもいかなくなってしまったエリスは渋々と顔を後ろへ向けて、楽しそうに此方へ近付いてくる部下達をジロリと睨む。
しかし部下達はどこ吹く風といった体で反省の色が全く見えない。
「あ、これお土産っす!」
「え?あ、ありがとうございます…?」
タイトが少女に手渡したのは木彫りの人形だった。
何と言うかモアイによく似た顔立ちの四角いそれを受け取った少女も、流石に反応に困った様子で、それでも礼を述べていた。
女性への土産に訳の分からない木彫りとは……。エリスは思わずタイトの顔を見る。
ニッと人懐っこそうな笑みには悪気は欠片もなさそうだ。
何故他の三人がタイトの買ってきた土産に言及しなかったのか疑問を抱きつつも、敢えて触れなかった。
「それで、お前達は一体どこに行っていたんだ。」
隣りでニコニコと笑みを浮かべながら佇むアレイストに小声で話しかける。
互いに視線は少女とタイトに向けつつ、最小限の口の動きで問い掛ければ楽しげな声音が返ってきた。
「全員で遊んでいました。」
「お前達、いい加減に――…」
「せっかく隊長とあの子が二人きりになれるんだから、良いじゃないですか。現に楽しかったでしょ?」
「…………。」
確かに楽しかった。部下達の事を気にせずのんびり過ごせたのは本当に気楽だった。
と言うより部下達は何時から自分の気持ちに気付いていたのかと若干頭を抱えたくなる。
図星過ぎて言い返せずにいるとアレイストがクスクスと笑った。
それが妙に落ち着かなくて思わず隣りへ肘打ちを出してみたものの、あっさりと避けられる。
そうしてそのままアレイストは少女の傍に立ってニコリと笑いかける。
「皆で遊ばない?トランプ買ったんだ。」
「あ!オレ、ゲーム機持ってきてるっスよ!」
「ゲームってまさかのPR3だったりすんのか?」
「そうっス。もちろんリューイもやるっスよね?」
「やる。」
しかも可笑しな方向に話が進んでいる。
ゲーム機、それもPR3なんてどうやって持ち込んだんだ。
記憶にあるそのゲーム機はかなりの大きさだったはずだと思い出していると、少女がやや困った表情でエリスを見た。
話が脱線して収拾がつかなくなる前に纏めた方が良さそうだ。
「…分かった、やるなら私の部屋でやれ。」
許可を出すと部下達はすぐにそれぞれの部屋に戻って行く。
少女がいるのだから危険な‘遊び道具’は流石に持ってこないだろう。
嵐が去った後、残された少女がホッと息をついた。
「皆さんお元気ですね。」
「…職業柄、体力は人一倍あるだろうからな。すまない、部下達に付き合わせてしまって。」
「いいえ、部屋に戻っても一人だとちょっと寂しいなって思っていたので…嬉しいです。」
「…そうか。」
寂しい、と口にした少女の頭を何とはなしに撫でる。
少し目を見開いて見上げてきたが、すぐに恥ずかしそうに目を伏せた。
嫌がる様子はなかったので暫く柔らかな黒髪を堪能してからそっと手を離した。
部屋に戻ろうと促せば照れた表情で「はい、」と返事が返される。
フェミリアの策にまんまと乗せられたようで少々腹立たしいが、たまにはこういう日も良いかもしれないと思う自分がいた。
「あ、僕フルハウス。」
「何っ?!」
「ぇえ、早いっスよ!」
「……スリーカード。」
エリスの部屋に集まり、やり出したポーカーが思いの他白熱しているようだ。
部下達は互いのカードを見ようと攻防を繰り返している。
カードゲームなんて久しぶりだったものの案外やってみると楽しい。手札をのんびり眺めていると隣りに座っていた少女が小声で呼びかけてきた。
「あの、これって何か役になっていますか…?」
ポーカーは初めてだと言っていた少女が自身の手札を差し出してくる。
その手の中を見てから、少女の顔に視線を向ければ不思議そうに此方を見返してくる。
これがいわゆるビギナーズラックというやつか。
「――…凄いな。」
「え?」
「とりあえず出した方が良い。」
ちなみにエリスはフォアカード。ポーカーでは三番目に強い役だ。
少女に手札を見せるよう促してやれば、おずおずとテーブルの上に置く。
10、J、Q、K、A。柄は全てハートである。
少女の役を見た部下達が目を見開いて声を上げた。
「「「ロイヤル・ストレートフラッシュ…?!!」」」
「…すごっ。」
少女は自分の出したカードをマジマジと見て「これがロイヤル・ストレートフラッシュなんですか。」と何やら他人事のように感心している。
何はともあれ、どうやら勝者は少女で決まりらしい。Prev Novel top Next