見上げると空が高くなってきていて、夜の訪れを感じた。繋がれていない片方の手がつめたい。隣の彼の手はとても温かくて、わたしなんだかそれだけで幸せな気分になった。もうすぐで沈んでしまう夕日は湖をこれでもかと言わんばかりに照らしていた。
なんだか急に愛しさが込み上げてきて、繋いだ手に少し力をこめる。そうすると彼も握りかえした。
「さむいね、シリウス」
「さむいな、ユカ」
そう言って彼は照れたように笑うので、なんだかわたしまでくすぐったい気分になった。
「そろそろ戻るか?
ほら、こんなに冷えてる」
彼はもう片方のわたしの手を捕まえて言う。
「ううん、もう少しだけ。シリウスの手が暖かいから大丈夫だよ」
「じゃあもう少し、な。お前の手はちょっとつめたすぎ。」
「あっ!みてみて、シリウス!」
「ん?」
「シリウスの星!」
「おう。」
「わたしね、あの星が一番好きよ。
全天体のなかで一番輝いていて、大きくて、それにわたしのだいすきなひととおんなじ名前なんだもん。」
彼はなにも言わない。
「シリウス?」
ぎゅっ
突然のことに驚いて声も出なかった。彼の長い腕がわたしをつつんでいて、彼の大きな手がわたしの背中に触れている。
ああわたし、シリウスに抱きしめられてる。
そんな彼の背中にそっと手を回し、たくましい胸に顔を埋めると速くなった鼓動が聞こえてきた。それになんだか恥ずかしくなって、わたしは目をつむった。
「シリウス、そろそろかえろっか。」
辺りはもう暗くなっていた。
「そだな。」
彼の腕のなかはとても温かかった。
「さあ、かえろう。」
わたしはすこしだけ深呼吸をして、また手を繋いだ。
(今日はシチューがあるといいなあ)(俺、チキンが入ったやつがいい)
2010/02/11