一時間前貴方が吸った、煙草のにおいが染み付いて離れない。この部屋に、わたしの体に、すべてに。まるで脳みそにこびり付いてしまったような、煙草の害の酷さに感嘆しつつも肯定したまま。とうに薄れきった貴方の温もりと、冷えた煙草のにおいを確かめるように、わたしはそっと目を閉じた。貴方のことばかりが頭に浮かぶ。だって仕方がないでしょう、わたし、四六時中貴方ばかりを見ていたんだもの。驚くほど鮮明に、思い出せる。矛盾に満ちた世の中を蔑むように笑った貴方の笑顔が目の奥に張り付いている。つい先刻のことだ。もう貴方は此処に居ないのに、それだけがなんどもなんども繰り返される。思い出は今もなお確かに愛を呼ぶ。それはただ、わたしを汚すだけなのかもしれないけれど。埃を被ったこの小さな部屋に貴方の面影をみつけて、わたしは泣いた。

優しさは時に憎悪をも呼ぶ。時に何よりも残酷で、紡がれた言葉は何より鋭利なナイフとなってわたしに突き刺さる。それを拒むことが出来なかったのは、貴方が酷く優しかったから。壊れ物を扱うかの様にわたしに触れたから。いっそ冷たく突き放してくれたらよかったのに。嘘でも良いから、飽きたとか適当なこと言って傷つけてくれればよかったのに。そうしたらわたし、貴方のことを嫌いになれたかもしれない。もう、決して交わることは無いんだね。ああせめて、その背をそっと眼で追うだけなら赦されますか。





さようなら、いつかまた。







(ゆるされない、あい)


2010/12/29


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