この行為が、私のいのちを繋ぎ止めている。




別に自殺願望があるとかそういうんじゃなくて、

まあそりゃあ消えたいと思うことはあるけど、
これは戒めであり、そして掃け口でもあるのだ。



虚しくて、空っぽで。


なにをしても満たされないのに、この行為の度に私はどうしようもなく満たされた気分になる。
だからやめられない。




緋色の液体が掌を伝う。


痛くて、でも温かくて、
それを感じて満足する自分がいた。











そうして暫くボーっとしていると、乾いたノックの音がした。





誰。何の用。



私は急いで左手を拭い、掌まですっぽり隠れるカーディガンを羽織った。
まだカーディガンを着るほど寒い季節ではないが、そこまで不自然ではないだろう。




「はい、どなたですか」






「私よ、ユカ。もうそろそろ夕食の時間だから迎えにきたの。」






リリーだ。


私は少しほっとして返事をした。
もうそんな時間なのか。



「分かった。ちょっと待ってね。」








リリーはよく私の部屋を訪ねてきてくれるが、決して自分からドアを開けたりしない。
私がドアを開けるまで、そこで待っていてくれる。
それは、過ぎた干渉を嫌う私への気遣いだ。


もしかするとこのことを知っているのかもしれない。
そう思うと、すこし怖くなった。暖かな笑顔の奥では私を軽蔑しているかもしれない。







「お待たせ。ありがとう、リリー」






談話室に降りると、そこには"彼ら"がいた。





「お待たせ。ごめんなさい、待っててくれたのね」






「勿論さ!さあ早く行こう。腹ぺこだ。」






ジェームズがそう言って立ち上がり歩き出すと、その隣をシリウスがけだるそうに歩く。




リーマスとピーターはその後をのんびりとついていく。






いつもの光景だ。




















「なあプロングス、どう思う。」


「ああ、また、だろうね。不自然だ。
ああいうのは癖になってしまうとやめられなくなるんだよ。誰かが、どうにかしてやらないと。」




「…そうだな。結局は本人次第だとも思うけど」





「理由にもよるだろうね。ただ理由もなくやってるんならまた話は別だけどさ。デリケートなことだからね。無理にやめさせたりすればかえって悪影響だ。まずは隙間を埋めてやらないといけないんじゃないか?」




おおかた寂しいんだろう。ジェームズの読みはそうだった。
彼女の性格的に、誰かに頼ったりすることが難しく自分に縋ることしか出来ないのだろう。



彼は、このことに気づいているのだろうか。

















大広間に到着し、適当な席につく。
他愛のない話をしながら食事を進める。
あたたかいスープを口に含みながら、私は思案した。



気づかれたと思ったが、思い過ごしだったろうか。
しかし彼女は、彼らは聡い。



リーマスの嘘を、秘密を見抜くような彼らだ。
遅かれ早かれ気づいてしまうだろう。



気付いて早くあたためて欲しい、という思いと気付かれて蔑まれたらどうしよう、嫌われたら、という思いが交差する。



「ユカ、ユカ!」




「え?」




「ちょっと、もう、零してるわよ!」




「わ、」



思案するうちにスプーンを持つ手が止まり、スープが零れてしまったようだ。





「わ、じゃないわよ、ほら早く拭かないと!」





リリーがナフキンで零れたスープを拭ってくれる。





「ごめんリリー、ありがとう」





「全くユカったら、気をつけてよね。
ああ、ここも少し汚れてるわね」




リリーの手が、私の左手の袖口についた汚れを拭おうとする。






「っ、やっ!」





触られては、見られてはいけない。そう思い、咄嗟に声をあげてしまった。拒絶してしまった。知られてしまうのが、怖かったのだ。



あからさまだった。

気付かれたくないなら、何食わぬ顔をしていればよかったのだ。




リリーを見ると、困惑し驚いた顔をしていた。




「、ごめ、なさい」




「い、いいえ、それより、もう汚れているところはない?」



私は小さく頷いた。



「大丈夫。…あの、私、もうご馳走様する。先帰ってるね」





そう言って席を立ち、
寮へ急いだ。















(それをみた彼らが目配せしていたことなんて、私は知らない。)







2010/11/8



自傷癖ヒロイン。
続きます。
リーマス夢のはずなのに一度も出てきていない、、


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