「おわったー!つかれたー!やっと解放されたー!」
「はは、おつかれさま。」
「リーマスもね。」
「ユカ今回すごい頑張ってたもんね。」
「まーね、一応、進路決めたから。」
そう、わたしたちは夏休みが明けたら最終学年になるのだ。ということは必然的に進路のことを考えるようになるし、テストだって手を抜けなくなる。
「リリーたちはあと1教科かあ。はやく終わらないかなあ。」
わたしたちはルーン語を選択していて、それが最後の教科だったが、リリー達は次が最後だ。
ここのところ授業以外は図書室や寮に篭りきりだったので、外の空気がとても気持ちいい。
わたしたちは湖の辺でリリー達を待つ間、今日はテストの打ち上げをしようとか、美味しい紅茶を頂いたから今度一緒に飲もうとか、ハニーデュークス新作のお菓子のことだとか、他愛のないことを話していた。
そうすると、ぱた、となにかが降ってきた。
ぱた、ぱた、
それがわたしのシャツに染みをつくる。
「やだ、降ってきた!」
そういってリーマスをみると、彼は参ったなあ、という顔をした。
「さあ、急いで戻ろう。」
お天気雨に降られて、
びしょびしょになりながらわたしたちは城に向かって走った。
走って走って走ったら、なぜだか可笑しくなって二人でばかみたいに大笑い。
「もーなんなのー!?」
「ああ、寮に帰る前に乾かさないとね」
風邪引いちゃうから。と、彼はくすくす笑いながらわたしの頭の上で杖をふった。(まだ笑いが収まらないらしい。)
「ん、ありがと。」
わたしの髪やら服やらを乾かし終えてから、彼は自分の髪の毛や服を乾かしはじめた。
それをぼーっとみていたら、なんだか急に寂しくなった。
「ね、リーマス」
「どうしたの?」
「どうしてこのままじゃいられないのかなあ。このじかんがずっとずっと続いたらいいのに。さっきみたいに、ばかみたいに笑ってたい。わたしはこのまま、何時までもみんなと一緒にいたい。」
こんなことを言ったら彼を困らせる。
わかっているのに、わたしの口は言葉を紡ぐのをやめない。
「進路とか、本当はかんがえたくない。かんがえてると、卒業して離れ離れになって、いままであったもの全部なくなって。日常だったものが、非日常になって。毎日いっしょにいたのに、全然会えなくなっちゃうんだよ。
そんなのさみしいよ。
みんなと別々の将来なんて考えたくない。がんばれない。
一生このままでいられるなら、大人になんかなりたくない。」
そういって顔をあげると、リーマスはじっとわたしを見つめた。
「すごく、よくわかるよ。
ホグワーツに入学して、僕は本当に掛け替えのないものを手に入れた。
僕の居場所はいつだって、ユカ、君やあいつらの傍なんだよ。
毎日一緒にいたのに、卒業したら別々の生活が待ってる。それはとても寂しいと思う。
だけどさ、ユカ。
環境が変わって、それぞれ忙しくてなかなか会えなくても、僕等はなにも変わらないよ。いつだってお互いを大事に思ってる。
繋がったままでいられる。
だから大丈夫だよ、
…それに、」
「うん?」
「君が寂しいときは、すぐに飛んでいってあげる。」
それを聞いてとうとう泣き出したわたしを、リーマスはそっと抱き寄せた。
子供をあやすように、優しく優しくわたしの背中をたたく。
なにかを確かめるようにきゅっとしがみついて、わたしはちいさく泣いた。
しばらくそうしていると大分落ち着いて、わたしはリーマスからはなれた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
「もうだいじょうぶ。がんばれる。」
「それはよかった。」
いつのまにか雨は上がっていて、雨に濡れた植物達が太陽の光を浴びてきらきらと光っていた。
2010/06/03