「痛っ、いやあっ、や、やめてっ、やめて、いっ、」
体中に鈍い痛みが走る。
このまま暴行を受け続ければ、身体よりも先に精神がおかしくなってしまいそうだ。
癒えかけては付けられる痣や傷は、増えることはあっても減ることは無かった。
何度も何度も同じところに拳を打ち付けられる。
腹を殴られたせいで、呼吸が乱れ、吐き気がした。眼も霞んできた気がする。
「あ、ひっ …っう、げほっ」
鳩尾を殴られ、胃の中のものを吐きだしてしまいそうになるが寸でのところでそれを堪える。
朦朧とする意識のなかで、私は酷く悲痛な顔をした男の姿をとらえた。
殴られて蹴られて、痛いのは私なのにどうしてそんなに悲しい顔をしているのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていると、襟首を掴まれ殴り飛ばされた。
抵抗する力も無く殴られ、私は部屋の隅に横たわるかたちで蹲る。
彼が近づいてくる。殆ど反射的に、身体が強ばった。
痛い、痛い。もう嫌だ。怖い怖い怖い。
また殴られるのか。
余りの恐怖に眼をぎゅっと瞑るが、想像していた痛みはない。
それどころか、私は彼の腕に抱かれている。
抱きしめられているというより縋り付かれているようなもので、子どもが母親にするようなそれは、行為の終わりを示していた。
それまでの行為がどんなに痛くて苦しくて、気が狂いそうなほど辛くても、こうして彼に縋り付かれ体温を感じるとなにもかもがどうでもよくなってしまうのだった。
はじめは首筋に噛み付かれえぐられるのではないかと怯えたが、今はもう怖くない。
彼の背に手をまわし、抱きしめ返す。
彼が何を考えているのかも、どんな表情をしてこうしているのかも分からないけれど、
ただ伝わってくる体温だけが酷く優しく、あたたかかった。
2011/01/16