「ねえあなた、どうしたのよこれ!」


「な、なんでもないの。心配しないで、全然痛くないのよ。」


ユカの腕に大きな痣を見つけ、リリーはその腕をとった。
袖をまくり上げると、無数の痣が散らばっている。
痛々しく紫色に鬱血し、酷く痛そうだ。


「おかしいわよ!どうしてこんなに…。なんでもないわけないじゃない!」


「転んだの。転んだのよ。3階の階段が、急に動いて…いつもは気をつけてるんだけど、なんだかぼーっとしてたみたいで気がつかなくって…。落ちてたらもっと酷かったかもしれないけど、転んだだけなの。
だから心配しないで。」

「本当にそうなの、ユカ、私の目を見て?」

「そうよ、本当に大丈夫だから。」


リリーは心配そうに眉を下げユカを見遣ったが、その視線に彼女が答えることは無かった。















「ねえポッター、話があるのだけど。」

真剣な面持ちでリリーは言う。


「なんだいリリー!愛の語らいなら大歓迎だよ!」



「、ポッター」

咎めるように名前を呼ぶ彼女の声に、彼は表情を固くした。


「なにかあった?」

「ええ…」

彼女は溜め息を一つ漏らし、話し始めた。

「ユカ、なんだか様子がおかしいのよ…
ここのところ体に痣が絶えないの。それもたくさん、いろんな場所に。切れた痕もあったわ。
でもあの子、それを上手に隠しているから普段の生活じゃ分からないのよ。私だって同室だったから気付けたようなものだし…。

どうしたのか聞いても絶対に答えてくれない。
答えたとしても嘘しか言わないわ。階段で転んだとか、机にぶつけたとか。

それに、それにあの子、私の目を見ようとしないのよ。
ついこの間まではあんなに幸せそうに笑う子だったのに、今はぎこちなく笑うだけなの。

…信頼、されていると思ってたわ。私も、ユカのこと信頼してる。
親しき仲にも礼儀ありっていうのは…知ってるわ。
知られたくないことの一つや二つ、誰にでもあることでしょう。でも大事なことはなんだって話してた。
明らかに様子がおかしいのに、どうしてあの子は心配するなっていうのかしら」


リリーはその美しい唇を悲しげに歪めた。


「…何か隠してるね。誰かに意図的にやられてるとしか考えられない。」

「そう、よね、でも誰がそんなこと…」

「シリウスを好きな女の子たちの確率が高いと思うけど」




















「ユカ」

リーマスが背後から声をかけると、ユカはびくりと肩を震わせた。
ソファに座るその背が、やけに小さく見える。


「ユカ、最近顔色が良くないね。何かあったのかい?
僕でよかったら相談に乗るよ。」

彼女の雰囲気に違和感を感じたリーマスは、至極優しい声色で話す。


「リ、リーマス、」

一瞬安堵した表情を浮かべるも、その顔はすぐに強張ってしまう。動揺を隠しもせずに目を泳がせ、不安げにスカートの端を握る。


「あの、なんでも、ないの。
ありがとう。リーマス。」


だから心配しないで。彼女は繕うようにぎこちなく微笑み、手元の本に視線を戻した。





「はい、飲むと良いよ。ユカ、僕の淹れた紅茶好きでしょう?」


「んっ…ありがとう、」

ユカは、リーマスの淹れる蜂蜜たっぷりのミルクティーが好きだった。
優しい彼の淹れた紅茶は、飲めばなぜだか心が温まるような気がするのだ。


「美味しいかい?
それを飲んで暖まって、早めに眠ると良い。」


リーマスは、頑なに心を閉ざし誰かを頼ろうとしない彼女にせめてささやかな安らぎを、と思い紅茶をいれたのだった。


休息も必要だよ、そう言って彼は男子寮に帰って行った。
ひとつのちいさな、確信をして。















2011/01/16





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