まだ陽も昇らぬ早朝、私は眼を覚ました。
今日はホグズミート行きの当日だ。
雪が降っていて寒いし、なんだかそわそわして落ち着かない。
昨日も酷く眼が冴えて眠れず、寝不足のはずなのに全く眠れない。
いつもと大違いだ。
なんだかこう、プライマリースクールの時の遠足に行く日みたいな感じ。
もぞもぞと体を動かしていると、隣から声がした。
「ユカ?」
リリーを起こしてしまったようだ。
「おはよう、起こしちゃった?」
わたしは体を起こしながらリリーの方を見遣った。
「おはよう、いいえ。大丈夫よ。」
「なんだか眼が冴えちゃって。」
「あら、私もよ。」
リリーがくすくすと笑った。
「楽しみね。ホグズミートは久しぶりだし」
そう、二ヶ月ぶりのホグズミート休暇なのだ。
買い物は勿論だけれど、久々のバタービールも楽しみ。
それにクリスマスが再来週に迫っているので、今日は皆へのプレゼントを選ぶつもりだ。
「そうね、楽しみだわ!」
「リリーは、それだけじゃないでしょう?」
にやりと笑って言うと、リリーは頬を赤く染め、黙り込んでしまった。
「あらあら。ふふ、オーケイしたのよね。喜んでたわよ、彼。」
「そ、そんなのユカだってそうよ!ブラックとデートじゃない!」
「うーん、まあデートと言えばデートだけど…
シリウスはそんなつもり無いと思うわ。」
それを聞くとリリーは心底微妙な顔をして、ーー眉と口元をピクピクと痙攣させ、笑いを堪えているような、なんと言うか、ーーそれはどうかしらね、と呟いた。
「さ、ユカ、支度しましょ」
あ、リリーったら話流した。まあでもあまり虐めすぎると向きになってジェームズとは行かない、などと言い出しかねないのでやめにしよう。そうなるとジェームズが面倒だ。(今だってリリーに関しては十分面倒な男だけれど、さらにうざったさが増しそうだ。)
「ん、そうね。」
さあ、何を着ようか。
何しろ久々の外出だし、張り切らない訳が無い。
私はクローゼットを開け、ワンピースを数枚つかむとベッドの上に並べた。
「ねえ、どれがいいと思う?」
「んー、その黒のが可愛いわね。」
リリーが指差したのは、黒いベルベットのワンピース。ふんわりとしたシルエットだが線がきれいに出る、上品だが可愛らしいものだ。
「じゃあこれにしよっと。」
私は他のものを全てクローゼットに仕舞い、そのワンピースに着替えた。
そして薄く化粧を施す。
上着はキャメルのコートを着ることに決めた。
「さ、支度も終わったことだし朝食に行きましょうか」
リリーはカジュアルなシャツワンピースをさらりと着こなしている。すらりときれいで、モデルの様だ。
「そうね、ちょっとはやいけど。」
私はカーディガンを引っかけ、談話室へと降りていくリリーの後を追った。
私達が早めの朝食をとっていると、ジェームズたちがやってきた。彼らも早く支度が終ったのだろうか。
もうお馴染みになったジェームズからリリーへのご挨拶“君はなんて美しいんだ”攻撃も終わり、彼らも朝食をとりはじめた。
「おはよ、リーマス、ピーター、」
口々におはようが返ってくる。
「おはよ、シリウス。」
「おう、おはよう」
彼は低血圧なので、いつも朝は物凄く不機嫌で眠そうにしているのに今日はなんだか…、普通だ。平常時のテンションだ。
「ねえ、今日さ、」
「ユカ」
「うん?」
どうしたものか、シリウスは耳まで真っ赤にしている。
「なんつーか、その、」
「それ、すげえ、似合ってる」
そう言うと彼はふい、と顔を背け、目の前のポタージュスープに集中し始めた。
(それを聞いた私の顔まで熱くなってしまったなんて、言えない)
2010/11/25
この前フリの長さw