いつからだろうか。リリーの眼をまっすぐに見れなくなってしまったのは。
私は、キラキラとした湖のような彼女の碧眼が大好きだった。
眩しすぎるくらいに真直ぐで、気高くて、美しい。それでいて慈愛に満ちている。
一度眼を合わせればすべてが崩れてしまう気がするのだ。この身ひとつに隠していかなくてはならないもの、守らなければならないもの、全てが。一度崩れれば、私はもう戻れない。精神を保つ糸は細く脆い。ギリギリの線で保たれていた感情は溢れ出してしまうだろう。
そんなことになれば、きっと引き離される。私の一番恐れていること、…痛みより、死ぬことより、この世界が闇の勢力に征圧されることより怖いものが私の身に訪れる。

彼と離ればなれになることが、一番に怖い。




「本当にそうなの、ユカ、私の目を見て?」

ごめんなさい、リリー、それは駄目。私は私の一番大事なものを守らなくちゃいけない。
その優しいこころに縋ることなんて、今の私には出来ない。

「そうよ、本当に大丈夫だから。」



ほんとうに、ごめんなさい。リリー。


















「ユカ」


背後から聞こえたすこし低めのトーンに、思わず肩を震わせる。
ああでも、この優しい甘さは彼だ。
大丈夫、今は此処には誰もいないから、あの人の嫉妬を買うことも無い。急に現れたときのことを考えると怖いけれど、大丈夫だと自分に言い聞かせて彼の方へ振り向いた。

彼は私の身に起こっている『何か』を察して、心配してくれている様だった。
リーマスは、底抜けに優しい。厳しくもあるけれど、人の抱える孤独や苦しみに敏感で、人の痛みにいち早く気付けるひとだ。
それは彼がこれまで経験してきたたくさんの出来事のなかで培われたものなのだろう。
そんなリーマスに私はいつも甘えていた。

「何かあったのかい?僕でよかったら相談に乗るよ。」

そして彼は私に甘い。彼の好きなチョコレート菓子をとろとろに溶かしたみたいに、私を甘やかす。
いつだって私の味方をしてくれる。ほら今だって、弱くて莫迦な私を見過ごしてくれようとしている。
私を信頼してくれる大切な友人に嘘を吐いたこころが、罪悪感に苛まれて悲鳴をあげる。けれどこれは、どんなに痛くても苦しくても突き通さなければならない嘘だ。
じくじくと痛むこころを無視して私は視線を本に戻した。


ふんわりと甘い香りが漂う。
これは、いつも彼が私に淹れてくれるミルクティーの香りだ。
私はこれが大好きだった。

「んっ…ありがとう、」

一口飲めば、やわらかに香る蜂蜜。
優しさに包まれているように、こころに温かさが広がる。


リーマス、貴方はどうしてこんなに私に優しくしてくれるの。

気遣いを残し、男子寮へと去っていく彼の背中をぼんやりと見つめ、そう呟く。






















あの人を捨てて誰かに頼る強さは、私には無い。















いろいろな思いが私の中を駆け巡り、まるで掻き乱す様に思想の矛盾を生み出していた。








2011/01/18






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