>> 星空と少年



雲が一切ない空に様々な星が煌めく、それは美しい夜の出来事だった。


私はカイリューに変身したメタモンに乗って、生まれ故郷であるシンオウ地方へと向かっていた。


といっても、ミッションやクエストを与えられた訳ではない。


簡潔にいえば、単に3日ほど休暇を得る事が出来たからだ(たかが3日と思う人もいるかもしれないが、ポケモンレンジャーにしては十分長期休暇の部類に当たるだろう)


つまり、帰郷というものだ。


「…あ、テンガン山」


年中真っ白な雪に覆われている、シンオウ地方のシンボルは闇の中では更に際立っていて、遠くからでもその形がはっきりと見える。


朝早くからずっと飛び続けていたメタモンもテンガン山が見えた途端、シンオウ地方に向けての飛行速度を徐々に上げていった。


「ふふっ、メタモンも久しぶりの里帰りが楽しみなの?」
『リュー♪』


背中を撫でながらそう問えば、声高らかに鳴いて返事をするメタモン。私は海の上に浮かぶ大陸を見据えながら潮風等から眼を保護するゴーグルを掛けなおし、これからくるであろう強風に備えた。


その時だった。


「…、…ぁ……あッ…」


ゴオオオオオ…と風の音に紛れて、何かが聞こえた。私は一旦メタモンにその場に留まるように指示して、下に大きく広がっている海を見渡す。漂流者がいるのかと思ったが、海にはそれらしいものは見当たらなかった。


「…ぁあ…、…ぁああ…!」


しかし、その何かが“声”だという事や段々と声量が大きくなってくる事に気が付くのには、そう時間はかからなかった。まさか、と思い、私はおそるおそる空を見上げる。


「…ぁぁああああ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
「え、ちょっ…」


何かが声をあげて、こちらへと落ちてくるのは分かった。が、ふと気が付けば、私はその何かと一緒に海面に向かって落下していた。メタモンがひどく驚いた表情でこちらを見下ろしている時、私は悟った。


あ、投げ出されたな。と。


私は咄嗟に空から落ちてきた何かを引き寄せて抱き抱えてメタモンの名を叫ぶ。するとメタモンは慌てて方向転換して、海面へ向かって落ちていく私を追い始めた。


そして、海面からあと数メートルという所で私はメタモンの背に跨り、再び空に向かって上昇していく。


「……っはぁああ、焦ったああ…」


痛いほどにバクバクと脈打つ心臓を押さえつけて、深く息をつくとメタモンが心配そうな眼差しでこちらを見ていた。


「、大丈夫だよ。助けてくれてありがと」
『キュー』


メタモンは当然だとでもいうかのように、どこか誇らしげに鳴いて返事をした。


「…ねぇメタモン、疲れてるだろうけど少し急いでミオシティに向かってくれない?」
『リュ?』
「この子を介抱してあげないと」


そういって私は空から落ちてきた何かの正体――もとい、私の胸の中で気絶しているこの小さな少年を見つめた。




next

1/1


|→
しおりを挟む




- ナノ -