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「いらっしゃいませどうぞー!」
ホールに出ている啓太の後ろ姿をぼんやりと眺めてみる。
うん、くそぉ。
やっぱりかっこいいよな畜生。
裏方から料理を運ぼうとしていた要はついついトレーを持つ両手に力を入れてしまう。
最後に啓太の部屋へ行ったのは、もう三日も前の話で、いつも用件はセックスであるとはいえこんなに空くことはなかった。
この前から考えてはいるが、ほんと辞め時かなあって。
そんなことを考えながらオーダーの商品をトレーに乗せきって、それを持ち上げるとホールへと出る。
がちゃんとトレーの上の器が音を立てて、それを運んでを繰り返していると、考え事をしているからかどうもバランスを崩してしまう。
長いバイトの時間、夜勤のバイトとの交代がもうすぐだと小さくため息をついて、お冷やを乗せたトレーを運んでいる途中。
「うわわっ!」
「っと、」
大きくコップの中の水が揺らぐ程に身体がぐらついて、誰かにとんと背中を支えられた。
「っすみません…!」
慌てて振り返ると。
「ん、要さん大丈夫?
今日ふらついてるよ。」
背後に立つのは、啓太だった。
要を支えるためか、自分の持つトレーは片手でひょいと頭上の高さまで上げている。
「しんどそうだし、早上がりさせてもらえば?」
久しぶりの柔らかい声色に思わず視線をあげたさきには、まるで昔、要が啓太に好きだと告げるまでの優しい表情をする啓太がいた。
は、え?
訳も分からないままぎくしゃくと礼を告げて、啓太の側を離れる。
考えが、気持ちが揺らぐ。
手にしたトレーを慌てて目的のテーブルまで運んで、もう一度厨房へ戻ろうと振り返ると。
「てんちょー、要さんしんどそうなんで先上がってもらっていいですかー?」
「っは?」
え、なに、どういうことだよ。
目をぱちくりとさせている間に店長から、おう上がらせてやれー、なんて声が聞こえて要には発言する暇も与えられない。
いつの間にか腰のエプロンを外させられて、店からぽーんと放り出された。
「ちょっとよくわかんねーけど、まぁラッキーか。」
状況もあまり掴めないままに帰り支度をさせられた要はゆったりとした足取りで店の駐車場を抜けてそれで。
「あっ、こんばんは!!」
一度だけ聞いたことのある、高い声。
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