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「つか、おっせーだろ。」
呟いた言葉は静かな部屋の中に響いた。
啓太が作れっていうから、わざわざ買い出し行ってご飯作ったのに、もう夜中の12時回ってるし。
店が終わるのは10時だ。
啓太ん家からバイト先はそう遠くもないから、ちょっと寄り道しても10時半には帰ってくると思ってたんだけど。
「この分だと今日は帰ってこねぇかなー…。」
そう思いつつも帰れないのは、もしお酒でも飲んで夜中に帰ってきた啓太がよろけて転んだりしたら、なんてつまらない心配をしているからだ。
馬鹿だなんてとっくに知ってる。
要に出来ることは、大きなソファの隅っこに遠慮がちにちょこんと座ったまま啓太の帰りを待つことだけだった。
そうして玄関のドアが開いたのは深夜。
何処かで飲んでいたようだが、要の予想と違うのは、その足元が割としっかりしていること。
リビングの電気が付きっぱなしで、まだ要が家に居ることを確認した啓太は、そのまま靴を脱いでリビングに足を進める。
「要ー、腹減った。」
やはり酒の力か、少し上機嫌なんだろう。
普段は使わない、まるで日常会話のようなセリフを吐いた啓太は、ソファに要の姿を見つけた、が。
「ったく寝てんじゃん。」
見つけたのはソファの肘掛けを枕代わりに丸まって眠る要の姿だった。
閉じられた瞳になんだか妙にぞくっとした感覚が走る。
この人、男のくせに綺麗な顔してんだよなぁ。
微妙にそそられる、っていうか。
そこまで考えて啓太は小さく首を振った。
寝ている男にそそられてどうする。
好きでもない男の寝込みでも襲うつもりかよ。
どうにか視線を逸らして、テーブルに目をやると、ラップを掛けられた料理が目に入って少しだけ気持ちが落ち着いた。
空きっ腹で飲んだからか、気分が悪い。
とりあえず空腹を満たそうとして、ラップを引っ剥がしてオムライスをかき込んで、最中ちらりとソファへ目をやる。
「っくそ、」
むしゃくしゃする。
俺が一方的に呼び出したってのに遠慮がちにソファ使ってることも、無駄に寒そうな格好してることも。
ほら、今だって身震いしてんじゃん。
仕方なく半分程しか食べ進めていないオムライスを置いて、ベッドに向かった啓太は目的の物を手に取ると、それを乱雑に要に掛けた。
ばさりと要に被さるタオルケット。
んん、と狭いソファの上でほんの少しだけ身じろいだ要の表情に、啓太はゆっくりと顔を近付ける。
「ばっかじゃねーの。」
睫毛に乗った、水滴。
泣くくらいなら、なんでこんなこと続けてんだよ。
何回も辞めるって選択肢やってるのに、好きかと聞けばこの人は頷く。
告白されたときに、ちゃんと断るべきだったんだろうけど、あの時の切なそうな顔見てたらどうしようもなくて。
立ち上がるとフローリングが軋む。
要の睫毛に乗った涙を指先で弾き落としてから、啓太は残りのオムライスをかき込んだ。
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